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インドネシアのスンダ地方における商業取引による鳥類の絶滅 [原著]

Eaten et al. (2015) Trade-driven extinctions and near-extinctions of avian taxa in Sundaic Indonesia. Forktail 31: 1-12.

ここ数年、東南アジアで商業取引がさまざまな野生生物に与える影響が深刻化している。特にスンダ地方では、伝統的に鳥を飼育する習慣もあり、国内での商業取引も盛ん。商業取引が主たる減少要因である13種について情報をまとめている。もちろん、オナガサイチョウも掲載されていて、Bird Conservation Internationalに掲載された論文の概要が紹介されている。

オナガサイチョウの商取引が急増したのは、2011年ごろから。中国での需要が増えたことが理由だが、どうして、オナガサイチョウの頭骨の需要が急に再燃したのかは、よくわかっていない。2012年3月から2014年8月までの期間に少なくとも2170の頭骨やカスクが押収されているが、氷山の一角に過ぎない。

この雑誌は刊行後2年で、フリーアクセスのPDFが公開されるのだけど、個の論文は最初からフリーアクセスで公開されている。それだけ重要性が高いということか。

遅く結実するナンキンハゼの種子散布 [原著]

Jaryan et al. (2016) Late fruiting in Sapium sebiferum: an effective dispersal strategy. Tropical Ecology 57: 375-379

インドのパランプールで外来種として分布拡大しているナンキンハゼの結実フェノロジーと果実消費者を調べた研究。ポイントは、在来種がほとんど結実していない11月から1月にナンキンハゼは結実するところ。この時期には、果実食鳥類が利用できそうな果実資源はほとんどないため、ナンキンハゼに多様な鳥類がやってきている。

Berberis lycium、Celtis australis、Ehretia acuminata、Ficus palamata、Grewia optiva、Persea odoratissima、Prunus cerasoides、Pyrus pashia、Rosa brunonii、Rubus ellipticus、Sapium sebiferum、Syzygium cuminiの開花・結実フェノロジーを調べており、在来種は11月までに結実が終わる。一方、ナンキンハゼは11月から1月にかけて結実する唯一の樹種。他の樹種と結実時期が違う植物には2-4月に結実するヒマラヤザクラPrunus cerasoidesもあるけど、こちらは在来種らしい。

果実消費動物の観察はフェノロジー観察のおまけで、集中的に対象や期間を決めて観察しているわけではない。それでも20種もの鳥類がナンキンハゼの果実を利用していることを記録している。インドコサイチョウも食べに来ている写真も掲載されている。落葉しているし、観察しやすそう。

カモ類による種子散布:幅広い植物種における見過ごされた散布経路 [原著]

Soons et al. (2016) Seed dispersal by dabbling ducks: an overlooked dispersal pathway for a broad spectrum of plant species. Journal of Ecology 104: 443-455.

水鳥による種子散布のなかでも、特に研究が進んでいるマガモ属7種(オナガガモ、ハシビロガモ、コガモ、ヒドリガモ、マガモ、シマアジ、オカヨシガモ)の種子散布に関する文献調査から、これらのカモ類が水草だけではなく、多様な分類群の植物の種子散布を行っている可能性を指摘している。特に本来、体内通過型の種子散布とは考えられてこなかった植物種の種子が含まれている点に注目している。

調査対象は西ユーラシアで、まずは腸内容物分析から種子散布している可能性のある食物リストを作成している。次にそれらの植物の機能形質を文献やデータベース(PLANTATTとLEDA)を利用して収集している。さらに特にサンプル数が多いフランスとオランダのデータについては、サンプリングが十分に行われているかをrarefaction curveで評価している。

71報の研究で報告された152事例8335個体分のデータに基づき、少なくとも57科189属445種の植物が利用されている。イネ科73種とカヤツリグサ科57種、ヒユ科34種、タデ科23種、バラ科20種、キク科18種、マメ科17種が上位で、これまでにカモ類が散布するとは思われていない分類群も含まれている。属レベルではCarexが36種でもっとも多い。液果も16属35種(Cotoneaster、Crataegus、Elaeagnus、Empetrum、Fragaria、Prunus、Pyrus、Rapistrum、Rosa、Rubus、Sambucus、Solanum、Sorbus、Vaccinium、Viburnum、Vitis)が含まれている。落ちている果実を食べているんだろうか?面白いのは液果以外のデータで、277種はこれまでに体内通過型の種子散布とは知られていない植物種。特にCarexのほとんどは体内通過型の種子散布の記録がない。

もちろん、腸内容物に種子が含まれていたからといって、有効な種子散布者であるとは限らないし、カモ類が狙ってこういった植物の果実や種子を食べているとは考えにくい。しかし、一見すると被食散布に適応しているとは思えないような植物であっても、こういった形で長距離散布される可能性を提示している点で面白い。

ホンドテンはサルナシが好き:林縁ツル植物の指向性散布者として [原著]

Yasumoto & Takatsuki (2015) The Japanese marten favors Actinidia arguta, a forest edge liane as a directed seed disperser. Zoological Science 32: 255-259.

ホンドテンがサルナシの指向性散布にかかわっている可能性を指摘した論文。サルナシは果実形質としては、いわゆる哺乳類散布に該当する果実。ホンドテンがサルナシの正当な種子散布者であるか、ホンドテンは林内よりも林縁でよく糞をするのか、サルナシは林内よりも林縁でよく成長するのかを検討している。ただし、サルナシベースでデータを集めているわけではなく、ホンドテン側からの研究で、サルナシについては、別の調査地(長野県アファンの森)で調べている点が弱い。

東京都あきる野市で、8.4kmの調査路を設定し、2012年12月から2013年11月にかけて、ホンドテンの糞をサンプリングしている。糞内容から食性を、葉、果実、種子、昆虫、甲殻類、鳥・哺乳類、不明としている。ただしキイチゴ類はRubus spp.でまとめている。分析した糞は冬に20個、春に25個、夏に24個、秋に20個の計89個。糞に種子が含まれていた植物の生息環境を林内、林縁、草原、植栽の4つに分類している。さらにベルトトランセクトを設定して、林内と林縁の糞密度を比較している。

ホンドテンの糞からは、シーズンを通して果実が出現している。ちょっと意外なのは春にかなり葉が含まれているところ。葉としか書いていないので、詳細は不明だが、新芽を食べているのだろうか?ジャコウネコみたいにイネ科草本の固い葉が出てきているのなら面白そう。10種の種子が発見され、キイチゴ類とサルナシが大部分を占めていた。生息環境は林内3種、林縁5種、草原1種、植栽1種だが、調査地で林縁に該当するのは1%に過ぎない。林内と林縁では、林縁で糞密度が高いことから、ホンドテンは林縁を選んで糞をしているらしい。

サルナシは林内ではなく、林縁で高い密度で見られ、ホンドテンは積極的にサルナシを食べにやってきているようす。サルナシ、キイチゴ類、ブドウ類などはいずれもツル植物で、ホンドテンの高い木登り技術が反映されているのではないだろうか。

ホンドテンはドクウツギも散布するようだし(花井 1978 石川県白山自然保護センター研究報告4:83-92;上馬ほか 2005 石川県白山自然保護センター研究報告32:31-36;足立ほか 2016 哺乳類科学56:17-25)、集中的に散布される影響がどの程度なのかを検討する必要はあるけど、意外な植物の種子散布に実は結構、貢献しているのかも?

タヌキのため糞場から発見された種子:種子散布の可能性 [原著]

Sakamoto & Takatsuki (2015) Seeds recovered from the droppings at latrines of the raccoon dog (Nyctereutes procyonoides viverrinus): The possibility of seed dispersal. Zoological Science 32:157-162.

タヌキのため糞場を利用したタヌキの果実食の確認とマーカーを利用した潜在的な種子散布距離の推定を行った研究。近年、ヨーロッパを中心に中・小型の肉食動物による種子散布の研究は飛躍的に進んできた。日本でもタヌキの食性や生息場所選択などの研究が進んで、種子散布に関するデータも公表されつつある。

調査地は東京都で、2009年6月から2010年5月の1年間にわたり、毎月、10個の糞をため糞から回収している(N=120個)。ただし、2009年6月と8月は糞が見つからなかったので、2010年に追加で採集している。調査区内で計22か所(林内:4か所、草原:18か所)のため糞を発見し、新しい糞に含まれている種子を確認している。種子散布距離はbait-marking methodを利用して、色が異なるラベル(6 x 8 mm)を魚肉ソーセージに埋め込んで、採餌場所からため糞場所までの距離を推定している。

糞内容分析から、96.7%の糞から計50種32,473個の種子が見つかっている。27種は種レベル、12種が属レベル、11種が科レベルまで同定できている。ヒサカキ、キイチゴ類、イヌホウズキ、コウゾ、ヤブランなどの種子が見つかっている。タヌキって、ヤブランの果実、そんなに食べるのね。この他にイネ科草本の種子が9種650個、その他の草本13種564個、マメ科5種68個が見つかっている。まあ、見つかった種子の大部分は液果。

マークの回収率は5.4%で、移動距離は給餌場所とため糞場所の位置から推定される期待値よりも距離が短い50m以下に集中して出現している。しかし、200mや350mにも出現しており、ある程度の距離は運ばれている。草原のマーカーは99.4%が草原で回収されており、森で回収されたのは1つのみ。一方、森のマーカーは64.9%が森、35%.1が草原で回収されているので、一定の割合で草原に森の植物が運ばれていそう。ただ、これは給餌場所と回収するため糞場所のそもそもの位置関係やサンプリング数も影響する。

カキやイチョウも入っているし、タヌキによる種子散布距離を推定した論文として、イチョウの論文をまとめるときに引用できそう。

渡り鳥による海を超えた種子散布 [原著]

Viana et al. (2016) Overseas seed dispersal by migratory birds. Proc. R. Soc. B 283: 20152406.

隔離された環境へのLong-distance dispersal (LDD)の重要性はよく知られており、有力なLDDの候補の一つは渡り鳥。ただし、LDDの実証データを集めるのは難しい。この研究では、エレオノラハヤブサが捕食する渡り鳥を利用して、渡り鳥によるLDDの可能性を検討している。エレオノラハヤブサは、ヨーロッパとアフリカの渡りの主要ルートに位置する地中海の島々で繁殖を行い、渡り鳥を捕獲して、ヒナに与える。エレオノラハヤブサは捕獲した渡り鳥を巣の近くに貯蔵することが知られており、この貯蔵した鳥を利用してLDDを調べている。まあ、エレオノラハヤブサはこの行動そのものの方が有名かも。

種子を回収するために貯蔵庫の鳥の死体から消化管を取り除き、本体はそのまま貯蔵庫に残している。エレオノラハヤブサが渡り鳥を捕獲したかどうかは、GPSトラッキングされている個体の移動経路から確認している。種子の同定はDNAバーコーディングを利用し、さらに形態からも判断している。種子はTCCを利用して、発芽能力の有無を確認している。

計21種408個体の消化管を採取し、5個体(ヨーロッパウズラが8個体中3個体、シロビタイジョウビタキが14個体中1個体、マダラヒタキが157個体中1個体)から45個の健全な種子を発見している。回収数が多かったRubusの種子の発芽能力は12%で、コントロールの70%よりもずいぶんと低い値。種子が見つかった割合は、1.2%のサンプルに過ぎないが、膨大な数の渡り鳥が移動していることを考えると、かなりの数の種子がLDDで運ばれている可能性が高い。実際に移動中の渡り鳥をサンプリングするなんて、他の手法ではなかなかできないだろうな。

LDD関連の最近の論文もまとまっているので、便利。

サイチョウのくちばしにも熱交換調節機能があるのか? [原著]

van de Ven et al. (2016) Regulation of heat exchange across the hornbill beak: functional similarities with toucans? PLoS ONE 11: e0154768

鳥類のくちばしの熱交換機能に関する研究は、ここ最近、急速に進んできた。特にくちばしが全長の3分の1を占めるオニオオハシの研究はインパクトがあったけど、それと同じようなことをアフリカのカラハリ砂漠に生息するミナミキバシコサイチョウTockus leucomelasを対象として研究している。繁殖期前に雌雄それぞれ9個体を捕獲し、室温をコントロールできるチャンバー内で実験している。室温は15、25、35、45度の4段階で調べており、調査対象個体は、チャンバー内の止まり木で撮影している。実際は途中で落ち着かなくなった個隊のデータを排除しているので、雄6個体、雌8個体の観察データに基づいている。

くちばし内にも血管系が発達している様子がよくわかる。室温が低い15度では、くちばしの温度は気温と同程度、30.7度で、下のくちばしが発熱、32.2度で両方のくちばしが発熱しているが、40.3度では、口を開けて放熱し、くちばしの方が気温よりも低くなっている。ただし、オニオオハシのくちばしの熱交換機能は低そう。アフリカの肉食性が強いサイチョウを対象としていることが理由の一つだろう。アジアの果実食性のサイチョウだともう少し違った傾向になるかもしれない。カスクの熱交換機能についても、再検討としてみる価値はあるのかも。

外来ナメクジがアリ散布共生系を搾取する [原著]

Dunphy et al. (2016) An invasive slug exploits an ant-seed dispersal mutualism. Oecologia 181:149-159.

外来ナメクジによるウマノスズクサ科Asarum canadenseのエライオソーム消費が、アリ散布に与える影響を複数の実験を組み合わせて検討した研究。Asarum canadenseの種子散布に関わる動物は在来アリのAphaenogaster rudis、外来アリのMyrmica rubra、外来ナメクジのArion subfuscus、在来のネズミの計4種。まず野外での排除実験から、どの分類群がAsarum canadenseの種子を持ち去り、エライオソームを消費するのかを調べている。さらにビデオ観察から対象生物以外の生物による種子へのアプローチを観察している。室内実験では、外来ナメクジがエライオソームを消費することで、種子持ち去りに与える影響を評価し、最後にナメクジの密度を変えたメソコスム実験から、アリの種子持ち去りに与える影響を評価している。

調査地はカナダのオンタリオ州キングシティ近くのKoffler Scientific Reserveで、Asarum canadenseが多数生育している環境。実験用の種子は果実が裂開する際に収集し、マイナス21度で冷凍保存している。アリは一度、エライオソームが冷凍されていても気にしないらしい。ネズミ排除区はケージ、アリ排除区はタングルフット、ナメクジ排除区は銅板とInsect-a-Slipという商品を組み合わせている。銅板だけでは、ナメクジの完全排除は難しいとのこと。これらの実験をビデオ撮影して、実際に排除対象とした生物に効果があることを確認している。そうだよね、ナメクジ排除って、結構、難しい。

排除実験から、アリだけが種子の持ち去りに効いており、ナメクジはエライオソームを消費するが、種子を運ばない。この辺はヨーロッパのナメクジによるアリ植物の種子散布の研究例とはちょっと違う傾向。ネズミはほとんど訪問しなかったが、種子とエライオソームの両方を消費した。室内実験からアリはエライオソームがある種子を19倍も多く持ち去っており、エライオソームの有無が種子の持ち去りに与える影響は大きい。また、ナメクジの高密度区では、エライオソームの食害が増えるため、結果的にアリによる種子の持ち去りが制限されている。

アリ散布に直接かかわるアリではなく、外来ナメクジがエライオソームを消費することで、アリ散布を阻害することを提示した点で貴重な研究。ナメクジの種子散布に絡む研究なので、てっきりTurkeさんの仕事かと思ったけど、カナダの別グループでまだ続きがありそうな雰囲気。実験システムを確立するまでが大変だったのではないかな。

オウムによる体内通過型の種子散布 [原著]

Blanco et al. (2016) Internal seed dispersal by parrots: an overview of a neglected mutualism. PeerJ 4:e1688.

オウムには果実食のものが多いが、果実をつぶして食べ、種子は捨てることが多いため、種子散布者の視点からの研究はほとんど行われてこなかった。しかし、種子食害者とされている動物の多くが、実際は種子散布者としての機能があることが示されつつある。この研究では、新熱帯のオウム類の糞内容分析(ねぐら、食事場所、巣)を行い、健全な種子の有無を確認している。ただし、サンプリングはかなり場当たり的に行われており、特定種を対象としたような研究ではない。

分内容分析から見つかった種子はTCCを利用した発芽能力の確認し、さらにTCCの有効性を確認するため、ペトリ皿への播種も行っている。これらを踏まえて、オウム類の食性を調べた研究をレビューして、潜在的に体内通過型の種子散布が行われている可能性が高い植物種との相互作用を検討している。

11種のオウム類の糞578個のうち、4種65個の糞から種子が見つかった。見つかった種子は5科(バラ科、クワ科、サボテン科、キク科、オオバコ科)の7種1787個。まったく種子が含まれていない糞は果実以外のものを食べていた可能性が高そう。糞から回収された種子の特徴は、いずれも小型で種子サイズが3mm以下。かなり小さいものしか体内通過していない。果実サイズはバラバラで、大きな果実から非常に小さな果実まで含まれている。セイヨウオオバコなんて、地上に降りて食べたということか?

回収された種子数が多いサボテン科のPilosocereus pachycladaとCereus jamacaruでは、TCCを利用した評価では前者で41%、後者で93%の発芽能力を示している。Pilosocereus pachycladaの発芽実験では、36%とTCCよりも多少、低い値が示されたが、それほど大きな違いはなさそう。残り5種はTCC処理した種子数が1-20個に過ぎないので、よくわからない。ただ、Rubus sp.は20個処理して、発芽能力がなさそうというのは、ちょっと気になる。

EndozoochoryとStomatochoryで種子サイズを比較したところ、前者が小さい。このStomatochoryという単語は”dispersal by animals where the seeds are spat (after carrying)”という定義らしい。マカクの頬袋散布ともちょっと違うのか?他の論文で、こんな単語見たことあったかな?種子サイズを長径と短径でプロットして、stomatochory、endozoochory、endozoochory (potential)で比較した図はわかりやすい。サイチョウでも種子を呑み込む場合と吐き戻す場合で比較する図を作っておいてもよさそう。

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