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インドネシアの北マルク州におけるタイハクオウムの繁殖期とパプアシワコブサイチョウとの巣穴をめぐる競合関係 [原著]

Rosyadi et al. (2018) Breeding season of the endangered white (Umbrella) cockatoo, and possible competition for nest holes with Blyth’s (Papuan) hornbill in North Maluku, Indonesia. Kukila 21:35-42

タイハクオウムの繁殖時に営巣に使う樹洞をめぐるパプアシワコブサイチョウとの競合関係を観察した研究。タイハクオウムはペット需要が高く、かつては大量に捕獲されていたが、野外の繁殖生態の詳細はほとんど知られていない。繁殖に樹洞を利用するため、他の鳥類と競合関係にあることが予想される。本研究では、特に同じ地域に生息する唯一のサイチョウ類であるパプアシワコブサイチョウとの競合関係について、5つの営巣木での観察から考察している。

2014年2月から11月にインドネシアの北マルク州で観察を行っている。前半はタイハクオウムの営巣木を観察して、そこにパプアシワコブサイチョウがやってきたときの様子を詳細に記録している。3つのうち1つでは、タイハクオウムが繁殖をやめている(ただし、パプアシワコブサイチョウの訪問が理由かは不明)。後半は2014年1月または過去にタイハクオウムが営巣した木で、パプワシワコブサイチョウが営巣した木を観察している。1か所では、タイハクオウムが樹洞の様子を見に来て、もう1か所では、ねぐらとしてパプワシワコブサイチョウが営巣中の木を使っていた。観察した5か所の営巣木すべてで両種が確認されている。

大型のオウムとサイチョウ類の分布域が重複している場所はフィリピンを除くとインドネシアとパプアニューギニアの一部に限定されているが、それらの場所では樹洞をめぐる競合はかなり頻繁に生じているのだろう。本研究では同じ営巣木でタイハクオウムが年の前半、パプアシワコブサイチョウが後半に繁殖することが起きるらしい。ただ、体サイズはパプアシワコブサイチョウ>タイハクオウムなので、基本、タイハクオウム側がパプアシワコブサイチョウに邪魔されないような時期に繁殖しているのかもしれない。
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アジアの森林性サイチョウ類はどのくらいの距離を種子散布するのか? [原著]

Naniwadekar et al. (2019) How far do Asian forest hornbills disperse seeds? Acta Oecologica 101:103482

東南アジアを代表する大型のサイチョウ類であるオオサイチョウとシワコブサイチョウの2種を対象として、結実木への訪問パターン、GPSによる個体追跡データ、種子の体内滞留時間を組み合わせて、種子散布距離を推定した研究。サンプル数はオオサイチョウ5羽、シワコブサイチョウ1羽で少ないものの、GPSテレメトリーを利用して、15分間隔の移動データを得ている。個体追跡データは1日30点以上のデータが得られたもののみを解析に利用している。追跡データはmovebankに登録されている。種子の体内滞留時間は2017年のクチンのサイチョウ学会で発表されており、特集号としてSarawak Museum Journalに掲載予定。元データはDRYADですでに公開されている。オオサイチョウとシワコブサイチョウの種子の体内滞留時間に差がないことを前提に両種をまとめて5種の果実(Aglaia spectabilis, Beilschmiedia assamica, Livistona jenkinsiana, Polyalthia simiarum, Syzygium cumini)について解析している。

これらのデータから、オオサイチョウの繁殖雄が営巣木の周辺とそれ以外の場所に種子を散布する割合、オオサイチョウの繁殖期と非繁殖期における種子散布距離の個体差、繁殖期のオオサイチョウとシワコブサイチョウの種子散布距離の種間差、の3点に注目した解析を行っている。まず結実木への訪問パターンは、繁殖期、非繁殖期ともに一日を通して、訪問が見られるが、時間帯はばらつきがあり早朝に多い。ただし、繁殖期と非繁殖期のパターンは変わらないので、早朝に高い活動性が見られるのは年間を通して同じ。まあ、起きたら朝ごはんなんだろうな。

GPSの位置データは、19-80日の追跡で、位置情報が1118から4707点。さすがに点数が多い。繁殖期のオオサイチョウの種子散布距離の中央値は294m、非繁殖期が254mでほとんど変わらないが、繁殖期のシワコブサイチョウは1,354mでかなり長い。最大値は繁殖期のオオサイチョウで2,502m、非繁殖期が12,860m、繁殖期のシワコブサイチョウが10,828m。繁殖期のオオサイチョウとシワコブサイチョウの違いはイチジクへの依存度だろうか。繁殖期に営巣木の近くで記録されたオオサイチョウは7.4%、シワコブサイチョウは1.7%で、ほとんどの種子はそれ以外の場所に散布されたと推定している。

GPSで追跡できている個体数は少ないものの、サイチョウ類の種子散布にも個体差がかなりありそうなデータを提示している貴重な研究。
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ボルネオ熱帯雨林の半着生イチジクの更新が少ない理由の一つは林冠での指向性散布が限定されているから [原著]

Nakabahashi et al. (2019) Limited directed seed dispersal in the canopy as one of the determinants of the low hemi-epiphytic figs’ recruitments in Bornean rainforests. PLoS ONE 14(6): e0217590.

ボルネオの熱帯雨林において、半着生イチジクはさまざまな果実食動物によって利用されるため、潜在的には多種多様な種子散布者がいる。しかし、半着生イチジクの個体数密度はどこでも低密度であることから、発芽もしくは定着に適当な場所に散布されていない可能性が高い。本研究では、それらの種子散布者として、ボルネオを代表する大型の果実食動物で、イチジクへの依存性が高いビントロング、ミュラーテナガザル、オナガサイチョウに注目し、それぞれの種子散布者としての有効性を量と質の両面から検討している。

量的な有効性は、結実木での直接観察により、一日あたりの果実消費量から評価している。果実消費量の推定には、訪問あたりの滞在時間を採食速度(5個以上連続で食べたときの値)で割った値に平均種子数をかけた値を利用している。質的な有効性は、体内通過した種子の発芽実験と排泄場所の環境条件から検討している。ビントロングとオナガサイチョウは糞から回収した種子と果実から採集した種子で発芽率を比較している。ミュラーテナガザルはインドネシアの先行研究の値を利用している。また、散布者を個体追跡して、散布先を特定し、種子の運命を追跡したが、すべて死亡したか、アクセスできなくなったため、先行研究の実生の生存率を類似した環境条件に置き換えた数値を利用している。

種子散布距離はビントロングとミュラーテナガザルは追跡データから1時間あたりの移動距離を算出し、体内滞留時間を組み合わせて推定している。オナガサイチョウはピライさんたちがカオヤイで収集したオオサイチョウの1時間あたりの移動距離のデータを論文から読み取り、さらにクタイでサイチョウ類の研究をしていたLeighton (1982)からペットとして飼育されていたアカコブサイチョウの体内滞留時間を利用している。サイズ的にはオナガサイチョウよりは一回り小さいが、それほど変わらんだろう。ただ、Supporting informationの体内滞留時間の最大値と最小値が逆になっているので注意。

散布先の環境情報を半着生イチジクの稚樹が見られる環境条件と比較してNMDSで解析した図2が素晴らしくって、ビントロングの散布先と稚樹の条件がほぼ一致していて、ミュラーテナガザルとかオナガサイチョウとは明確に異なる傾向を示している。どの散布者も発芽能力のある種子を散布しており、種子食外とかはなさそう。種子散布距離で比べるとビントロングが一番短く、オナガサイチョウが一番長いけど、SDE landscapeで見るとビントロングが量的にも質的にも有効で、オナガサイチョウは量的には少ないが、散布場所によっては質的に高い場合も見られる。残念なことに図3と図4はキャプションや本文中の引用は正しいけど、肝心の図が入れ替わってしまっている。図3はSDE landscapeを提示したもの、図4が種子散布距離を推定したものが正しい。

自分のデータに先行研究の様々なデータを組み合わせて、一般的には有効な種子散布者であるとされるテナガザル類やサイチョウ類ではなく、ビントロングが半着生イチジクにとって数少ない有効な種子散布者であることを示した研究。
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大型の果実食動物が重要:ネットワークと種子散布者の有効性に基づいた洞察 [原著]

Naniwadekar et al. (2019) Large frugivores matter: Insights from network and seed dispersal effectiveness approaches. Journal of Animal Ecology 88: 1250-1262.

インド北東部でサイチョウ類の種子散布の研究を続けているグループからの総まとめ的な論文で、さまざまな果実形質を持つ植物とそれらを利用する果実食鳥類の関係をネットワーク分析と結実木での果実消費行動に基づき有効性を検討した研究。

調査地はアルナチャールプラデッシュのPakke Tiger Reserveで、2015年4月から6月は大型種子をもつ5種(Polyalthia simiarum, Dysoxylum gotadhora, Aglaia spectabilis, Chisocheton cumingianus Horsfieldia kingii)を対象として66回の観察を行っている。2016年10月から2018年2月にかけては、上記の5種を含む46種を対象にして、269回の観察を行っている。21科46種の鳥散布植物184個体を対象とした、のべ335回2065時間11分の観察に基づく大規模データ。

果実形質は、果実サイズは30個の熟した果実を測定したものと、データベースから情報を得ており、Sが5mm未満、Mが5-15mm、Lが15mmより大きいものとしている。果実食鳥類の口幅サイズはイギリスとボンベイの博物館標本を利用している。果実食鳥類のサイズ区分は、先行研究のVidal (2013)にしたがい、0.1kgより重たいものをLargeとしている。ゴシキドリ類(1.97–2.77 cm)、ヒヨドリ類(0.88–1.37 cm)、アオバト類(1.09–1.41 cm)、ミカドバト類(1.83–1.84 cm)、サイチョウ類(4.29–5.73 cm)の口幅サイズも掲載されている。ミカドバトが少し小さすぎる気がするけどな…。観察データが多いAglaia spectabilis, Chisocheton cumingianus, Dysoxylum gotadhora, Polyalthia simiarumの4種については、x軸に訪問頻度と滞在あたりの持ち去り果実数、y軸に呑み込んだ果実の割合を使って、SDE landscapeを作成している。

48種14,756個体の訪問を記録して、43種の植物との間に432の相互作用を記録している。果実食鳥類がまったく記録されたなかったのがクスノキ科3種(Litsea sp. 1, Actinodaphne obovata, Beilschmiedia assamica)、一方、記録種数が多いのは、着生イチジク3種(Ficus drupacea 25種, F. geniculata 24種、F. altissima 20種)。サイチョウ類は3種で12種が利用されほぼ同じパターン(オオサイチョウ11種、シワコブサイチョウ12種、キタカササギサイチョウ11種)。果実食鳥類のグループごとに示された利用する果実サイズと果実の丸のみ率の散布図は明確に口幅制限を示している。サイチョウ類を除いて、果実サイズが大きくなると呑み込み率が低下する。SDE landscapeはサイチョウ類はほとんど丸呑みするので、質の要素はいずれも高いが、量の要素はサイズ依存で、オオサイチョウ>シワコブサイチョウ>キタカササギサイチョウというデータになっている。これ、同じ解析してみようかな。

果実食哺乳類は含まれていないけど、大小さまざまな鳥類と果実を群集レベルで観察したデータにもとづいた貴重な研究。カオヤイでもこのくらいの精度で観察データを収集してみたかった。
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