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西表島のクロボウモドキの潜在的な種子散布者 [原著]

Furumoto (2023) Potential seed dispersal agents of Monoon liukiuense on Iriomote Island, Japan. Journal of Tropical Ecology 39:e18
DOI: https://doi.org/10.1017/S0266467423000056

クロボウモドキは国内に自生するバンレイシ科の樹木。以前はPolyalthia属だったけど、現在はMonoon属。西表島と波照間島と台湾のOrchid島に分布するが、分布域は広くはない。果実はいかにもPolyalthiaで、タコさんウインナーのような赤い果実から赤黒い果実に熟す。日本国内に分布する被食散布型果実としては大型で、果実が2.4-4.0×1.6-2.6cm、種子が1.4-2.8×0.9-1.7cm。カオヤイでよく見たPolyalthia jucundaと同じくらいの大きさ。

2015年6月から2016年8月までの間の3回の結実期に調査を行っている。インターバル撮影(日中:Recolo IR7、夜間:DVR-HC7310A)で樹上の果実と地表の落果を観察して、訪問した動物を撮影画像からvisiting、eating、dropping、carryingに区別して記録している。

樹上では7340時間、地表では5844時間の観察を行い、樹上ではヤエヤマオオコウモリ、オサハシブトガラス、ヒヨドリなどが一部の果実を持ち去るが、ほとんどは落下する。地表では、ヤエヤマセマルハコガメが最もよく訪問しているが、果肉を食べるだけで、種子はその場に残していく。持ち去ったのはオサハシブトガラスのみ。オカガニ科もかなり頻繁に撮影されているが、食べている量はヤエヤマセマルハコガメよりはずっと少ない。

果実サイズ的に鳥類で普通に食べられそうなのはオサハシブトガラスくらいだし、あとはオオコウモリが食べるのは妥当な結果だろう。面白いのは、地上でヤエヤマセマルハコガメがかなりたくさんの果肉を利用している点。種子サイズが大きすぎるので、被食散布しているわけではないが、果実食の傾向が強いのかもしれない。
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付着散布植物の種子付着は動物の毛皮、体高、植物のフェノロジーに依存する [原著]

Sato et al. (2023) Seed attachment by epizoochory depends on animal fur, body height, and plant phenology. Acta Oecologica 119:103914.
https://doi.org/10.1016/j.actao.2023.103914

被食散布の研究と比べると付着散布の研究、特に動物側の視点に立った研究は、人なれした個体や飼育個体を除くと、野生動物を対象とすることは難しいので、情報は限定されている。この研究では、日本国内の森林で見られる中型哺乳類6種(アナグマ、ニホンイタチ、ハクビシン、アライグマ、タヌキ、アカギツネ)と付着散布植物7種を対象としている。

先行研究でも毛皮を利用した研究は多いけど、この研究では本剥製に車輪をつけたような模型を作成しているところがポイント。模型を林内で動かすことで、実際に動物が移動した際に種子が付着する高さや位置などの詳細な情報を調べている。種子の付着量に影響するのは、動物側の要因としては、毛の長さ、さらに植物体の高さと体高の重複具合なので、その辺は大型動物を対象にしたデータと矛盾していなさそう。

植物側の構成種の割合がこちらとは異なると思われるけど、イノコズチ、チヂミザサ、ミズヒキなどは共通しているので、比較すると面白そう。石川県だと積雪の影響があるので、付着散布植物の種子が残っていたとしても冬になれば、すべて倒れてしまう。こちらの調査地では、植物体が枯れても維持されるので、長期間にわたり種子散布できる。積雪の有無で地域間比較したら、植物側の形質に何か変化が見られないだろうか。
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大型散布体をもつ樹木に対する大型の果実食動物による種子散布の重要性 [原著]

Sato (2022) Significance of seed dispersal by the largest frugivore for large‑diaspore trees. Scientific Reports 12:19086
https://doi.org/10.1038/s41598-022-23018-x

マダガスカルでチャイロキツネザルの種子散布を研究している佐藤さんの研究。これまでは、チャイロキツネザル視点の研究成果が多かったけど、今回は植物側の視点から、チャイロキツネザルによる種子散布の有効性をセンダン科Astrotrichilia asterotricha(AA)とウルシ科Abrahamia deflexa(AD)の2種を対象として評価した研究。AAは他の果実が多くない乾季、ADは他の果実もみられる雨期に結実するところがポイント。これら結実木での直接観察による量的な要素の推定、チャイロキツネザルの種子散布をシミュレートして、糞まみれ種子を結実個体から近い場所と離れた場所に実験的に設置して、そこでの種子から実生での生存過程追跡調査した質的な要素の推定を行っている。

AAの果実サイズは17.5 × 19.8 × 19.0 mmで、散布体のサイズが15.4 × 17.8 × 16.9 mmで、種子が1から3個含まれている。ADの果実サイズは23.8 × 15.3 × 15.0 mm、種子サイズは23.0 × 14.0 × 13.7 mmで、同程度。観察時間はAAで360時間、ADで280時間で、直接観察が夜間も行われていることは素晴らしい。夜行性の生き物を対象にするのは大変だ。AAでは56時間だから、観察時間の15%くらいで動物が記録されているけど、ADは8時間に満たない(3%未満)なので、なかなかつらい。AAでは哺乳類4種と鳥類10種、ADでは哺乳類6種と鳥類7種が記録されているが、果実を丸呑みして種子を散布しているのは両樹種ともにチャイロキツネザルのみ。より小型のキツネザルには果実サイズが大きすぎる様子。AAでは、林冠が大きく、林床への落果量が多い個体、ADでは、林床への落果量が多い個体が選択されているので、大きな木によく集まっている様子。AAでは、結実量の58.8%、ADでも結実量の26%がチャイロキツネザルによって持ち去られている。前者は他に果実も少ないので、繰り返し訪問されるが、後者はたまにしか来ないということが関連しているようす。

散布後の運命については、散布体または種子を結実個体の近くと離れた場所に実験的に設置して、その後の運命を追跡することで評価している。チャイロキツネザルの小型の糞を模倣して、散布体や種子と一緒に糞を設置しているのがポイント。設置場所の光条件の推定には、竹中さんのCANOPONが使われている。AAでは、散布先で発芽はするけど、そのほとんどが短期間に死滅するが、光条件のよいところは生き残っている。ADでは、結実個体の周辺ではほとんどの種子がネズミや昆虫の食害で死亡するけど、離れた場所では、一部が生き残る。前者では、大量に運ばれた種子の一部が生き残り、後者では結実個体から離れた場所に運ばれた種子が生き残るという形で、チャイロキツネザルが貢献していることを示している。

わたしもAglaiaとCanariumの論文は別々にするんじゃなくて、同じような動物相に種子散布される大型種子をつける樹種として一つの論文で発表したほうがインパクトあったのではないかと思うけど、学位論文としてまとめるには、Canariumのデータは間に合わなかったんだな。
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鳥類に散布される果実色の進化における検出性の役割 [原著]

Tedore et al. (2022) The role of detectability in the evolution of avian-dispersed fruit color. Vision Research 196:108046
https://doi.org/10.1016/j.visres.2022.108046

鳥類に散布される果実の色彩の主要な機能が検出性の最大化であるとすれば、鳥類が散布する果実でもっとも一般的な色は、鳥類にもっとも検出されやすい色と考えられる。著者らが先行研究で開発したマルチスペクトルカメラを利用して、鳥類の視覚系(UVS:U, SU, M, and L conesとVS:V, SV, M, and L cones、それぞれピーク紫外線感度〜370と409nm)を再現して、野外の果実がどのような色に見えるのかを調べている。ただし、果実の色の進化には霊長類が関わっている可能性もあるので、霊長類がいないスウェーデンとオーストラリアを調査地として計63種の果実を撮影している。実際は83種を撮影したが、散布者不明や哺乳類型果実のデータは解析に利用していない。

果実の色は9つの色(red, purplish-UV, bluish-UV, pink, orange, orangish-red, blue, UVish-purple, purple)に分類されている。たとえば、青紫色は、鳥類の紫外線錐体が最も励起し、かつ青色錐体も強く励起する場合である。赤は最も一般的な色であり検出性が高いが、2番目と3番目に一般的な色である紫外光と青外光(ヒトが「黒」と呼ぶ色)は検出性が最も低い色である。後者の2色は、VS型の鳥類よりもUVS型の鳥類の方が感知しやすいが、両方の視覚系で最も感知しにくい色であった。UVish-purple、ピンク、オレンジなどのまれな果実の色は両方の視覚系で検出しやすい。含まれる種数が多い果実色と識別性に相関がないことから、識別性の最大化は果実の色の進化の主要な原動力ではなかったことが示唆された。

スウェーデンとオーストラリアの植物だと、属レベルであれば日本と共通している種も見られる。青い果実はElaeocarpus grandisとかAlpinia caeruleaなど、UVish-purpleはツルボラン科キキョウラン属のDianella atraxisとD. caeruleaが含まれており、いずれもオーストラリア産。なるほど、こんな紫のことをUVish-purpleとしているのか。日本のキキョウランもネット検索した限りは似たような色の果実らしい。一度見てみたいけど、南だなあ。
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果実食鳥類の採食は低木果実の果皮の色とUV反射に関連している [原著]

Nagami et al. (2022) Frugivorous bird foraging is related to pericarp color and ultraviolet reflectance in fruiting shrub species. Journal of Forest Research
https://doi.org/10.1080/13416979.2022.2137095

鳥類は餌となる果実を探す際、可視光と紫外線の反射の両方を利用していると考えられる。特に果皮の色は、果実の成熟具合を判断するための正直な信号であることが示唆されている。本研究では、大阪公立大学付属植物園において、ヒサカキ、ネズミモチ、イボタノキを対象として、果実の糖度および光スペクトルを測定し、それらの果実を利用する鳥類を自動撮影カメラで記録することで、果実の成熟するタイミングと鳥類が採食するタイミングとの対応を見ている。

調査対象の3樹種はいずれも秋から冬にかけて黒っぽい果実をつける低木であり、自動撮影カメラを設置しやすい。また、日本国内やアジアでは被食散布型果実には黒色が多く、先行研究のYoshikawa et al. (2009)の情報からも採食記録が多い樹種に含まれている。果実の反射スペクトルの測定には分光光度計(FLAME-S-UV-VIS、OceanOptics社)と人工光源(DH-2000-BAL、OceanOptics社)、糖度の測定には糖度計(PAL-1、アタゴ社)を用いている。2020年10月から2021年1月にかけて、6-12日間隔で10個の果実を採集し、結実フェノロジーの進行と合わせて色の変化を測定している。自動撮影カメラはLtl-Acorn6210MCを利用しているけど、調査対象から2mの距離に設定して、ポールで固定しているので焦点距離の調整はしていない様子。センサー感度はHighで、60秒間の記録。

調査地内に130cmより大きな個体はヒサカキ224個体、ネズミモチ44個体、イボタノキ8個体。3種とも糖度はdarknessと相関するが、イボタノキではUCSとの相関が見られない。9種の鳥類が訪問し、6種(ヒヨドリ、ジョウビタキ、ツグミ、シロハラ、トラツグミ、メジロ)が果実を利用している。ヒサカキのある個体はツグミの群れがやってきたときに2000個以上の果実が食べられている。ただし、食べられるタイミングは種内・種間ともにかなりバラバラ。ただし、糖度がピークに達してから数日以内に消費量が最大になっているので、しっかり熟した果実を選んでいる様子。ヒヨドリが真っ先に来ているのは、よく知っているということか?

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多様な果実食哺乳類に種子散布を依存するランブータンの一種Nephelium melliferum [原著]

Brockelman et al. (2022) Dispersal success of a specialized tropical tree depends on complex interactions among diverse mammalian frugivores. Global Ecology and Conservation 40: e02312.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2351989422003146

カオヤイ国立公園のMoSingtoプロットが設定されたばかりの頃から研究されてきたランブータンの一種Nephelium melliferumの種子散布に関する研究。カオヤイで研究されてきた植物の中でもシロテテナガザルへの依存度がもっとも高いと思われる植物の一つ。シロテテナガザルの餌植物として重要だし、種子散布にも貢献している可能性は指摘されていたが、結実規模が大きく年変動するので、調査対象としてはなかなか難しい。2004年から2022年にかけて、複数回の調査を行い、1)直接観察と種子トラップによる林冠での果実食、2)自動撮影カメラを用いた林床での果実食、3)種子散布距離の推定、4)種子の運命と発芽実験、5)実生の一年後の生残、の5項目を確認し、SDEの枠組みで、重要な種子散布者を明らかにしている。2020年の調査はコロナの影響で、調査地には入れなかったために途中で中断したらしい。

生産果実がどの動物にどのくらい食べられているのかを示した図1はシルエットの動物も本来のサイズに合わせている様子でわかりやすい。林冠で78%も食べられているが、ほとんどがリス類(49%)、シロテテナガザルが16%、キタブタオザルが13%。残り22%しか林床に落ちない様子。ただ、リスが利用した果実のほとんどは林床に落ちる点はアグライアともよく似ている。林冠ではリスとシロテテナガザルは結実期間を通してやってくるけど、キタブタオザルは群れが通過した時なので、短期間で大量に食べるイメージ。シロテテナガザルは種子も飲み込むので、体内滞留時間が長くなる。一方、キタブタオザルは頬袋にいれて、種子は吐き出すので、ほとんどが樹冠下に散布される。リスも同様。種子食害者の排除実験から、散布後の主な種子捕食者は昆虫ではなく、哺乳類であることを確認している。アジアゾウに壊されなかったのであれば、運がいいなあ。実生の生残については、林冠から10m離れると倍の生存率を示している。相対的に重要なのは、シロテテナガザル、次いでフィンレイソンリスというのがちょっと意外だけど、量的にたくさん利用することが影響している。特に小規模な結実個体では、シロテテナガザルよりもフィンレイソンリスの有効性が高い。結実規模が小さい個体には、テナガザルやブタオザルの訪問頻度が下がるからだろう。

ちょうど私が研究を始めたころに研究していた修士課程の学生の修論の内容も引用されており、懐かしく読んだ。
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鳥類の渡りと果実量の変動にともなう種子散布ネットワーク構造の長期動態 [原著]

Ohkawara et al. (2022) Long‑term dynamics of the network structures in seed dispersal associated with fluctuations in bird migration and fruit abundance. Oecologia DOI:10.1007/s00442-021-05102-7

10月中旬の秋の渡りのシーズンに織田山鳥類観測ステーションで行われている標識調査時に糞内容分析を行い、さらに周辺の結実フェノロジーをモニタリングして、種子散布ネットワーク構造の長期動態を調べた研究。様々な地域での種子散布ネットワーク構造が描かれるようになって、ネットワーク構造を地域間比較、同一地域の季節感比較の研究もでてきた。年変動についても考量した研究が出てきたけど、10年を超えるものはまだまだ稀。本研究では、2005年から2016年にかけて、結実量の年変動、同時期の渡り鳥の個体数と種構成の年変動を調べて、両者のパターンに基づいてネットワーク構造を類別化し、ネットワーク構造を入れ子型とモジュール型に基づいた比較、およびその構造に影響を与える要因を抽出している。

結実フェノロジーの調査は調査ステーションの捕獲サイト(0.6ha)とその周辺のコース(10m×10km)の範囲での結実状況をツルや草本も含めて毎年調べている。結実数が少ない植物はすべて計数、多い植物は果序あたり、枝あたり果序数、個体あたり枝数と掛け算して推定している。散布者となる鳥類は、標識調査時にリリース前の個体が鳥袋のなかで排泄または吐き戻した種子を回収して、同定している。

調査期間中に植物は97種8067個体が結実しており、カラスザンショウとアカメガシワがほぼ毎年、優占していて23%~89%。個体あたりの結実数や道沿いで観察していることを考えるとそうなるだろう。ただ、その影響を除いても優占種の結実数は明確な年変動パターンが見られ、奇数年に結実数・結実種数ともに多く、偶数年に少ない。一方、鳥類は20種16722個体が捕獲され、1日あたりの捕獲数は36~122個体で、年によってかなりばらつく。15種6652サンプルのうち、1671サンプルに60種の植物が含まれていた。主な渡り鳥はシロハラ、マミチャジナイ、メジロの捕獲個体数と結実数や結実種数に明確な関係は見られない。年ごとの両者の傾向に基づいて、区分すると果実数も果実食鳥類も多い年(3年)、果実数は少ないが、果実食鳥類が多い年(5年)、果実数も果実食鳥類も少ない年(4年)の3グループになる。

果実数が少ない年には、入れ子型になり、シロハラ、マミチャジナイが、果実数が少ない年にはさまざまな植物を利用することで、ジェネラリストっぽくふるまうことが関係していそう。渡りの途中だと果実が少ない年には、普段は食べないような果実を食べることがでてくるんだろうな。

わたしが初めて見学したのは2015年の秋で、ちょうどこの論文のデータだと終わりの方の話。大河原さんたちがネットワーク関係の情報を収集しているのは知っていたけど、なかなか話を聞く機会がなかった。たまたまうちの職場と金沢大学で教育研究活動共同研究に対して小規模の研究費が採択されて、何度か調査にも同行させていただいたので、あのデータが公表されたのかと思うと感慨深い。個人的に面白いと思うのは、この結実フェノロジーのデータと石川県のブナ科豊凶パターンとの対応関係。基本、奇数年に多くて、偶数年に少ないパターンは一致している。全国的にはどうなっているのかを知りたい。

調査地の様子などは大河原さんのサイトにも掲載されている。
http://ecology.s.kanazawa-u.ac.jp/lab3/Ohkawara3/INDEX/Ohkawara.otayama.html
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移動性の高いオニハマダイコン属2種の世界的な分布を説明する [原著]

Shaw et al. (2021) Explaining the worldwide distributions of two highly mobile species: Cakile edentula and Cakile maritima. Journal of Biogeography 48:603-615.
https://doi.org/10.1111/jbi.14024

外来種として全世界に広がりつつあるオニハマダイコン属2種(Cakile edentulaとCakile maritima)を対象として、さまざまな原産地と定着先からサンプリングを行い、定着した回数、原産地の気候と定着後広がった場所の気候とを比較している。ハイスループットシーケンスとゲノムスキミング、さらにベイズ推定を組み合わせて、葉緑体ゲノム全体と核リボソームDNAの領域について、原産地と侵入地とでの変異を調べている。さらに各種のクレードが生育している地域の気候条件を調べている。GBIFデータも使っていて、同定に信頼のおける情報の地域に限り、気候条件を抽出している。

少なくとも7つのクレードが世界各地に侵入しており、そのほとんどについて原産地を特定することができている。定着先の気候条件は、原産地と近いものもあれば、本来の気候条件よりも広い範囲の場合も見られる。日本のオニハマダイコンとして、唯一、福井県のサンプルが含まれているんだけど、これがオーストラリアやニュージーランドとは全く異なるクレードに含まれている点がポイント。日本のサンプルが含まれるクレードA5の原産地はアメリカ東海岸の南側だけど、オーストラリアのクレードA9は北側で、明確に異なっている。

日本のサンプルの気候条件は原産地の範囲には含まれないけど、他地域の侵入先の気候条件の範囲には含まれているので、十分生育できるそう。日本への定着プロセスとしては、貿易ルートからアメリカ東海岸から西海岸のサンフランシスコ、それから太平洋を渡って日本という経路を想定している。東アジアのサンプルが日本しかないけど、周辺地域も同じ起源と考えてよいのかな。石川県のサンプルが福井県と大きく違うとは想定しにくいか。

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ナメクジによるアミメクロセイヨウショウロの胞子散布 [原著]

Ori et al. (2021) Effect of slug mycophagy on Tuber aestivum spores. Fungal Bology 125:796-805.
https://doi.org/10.1016/j.funbio.2021.05.002

ヤマナメクジの胞子散布に関連した研究に関わっているので、現状を知るのにちょうどよさそうな論文。地下に子実体を形成するトリュフの仲間では、空気中に胞子を飛ばすことは難しい。食菌性動物による被食散布によって、胞子が散布されると考えられており、哺乳類の中ではネズミ類、無脊椎動物の中では節足動物に注目されてきた。この研究では、ナメクジの胞子散布の可能性を給餌実験と食性調査から検討している。

ナメクジの一種Deroceras invadens(DNAバーコーディングで種同定)とハツカネズミを用いて給餌実験を行い、それぞれの動物が排泄した胞子の表面構造をSEMとAFMで観察し、アカガシワの実生に接種して、菌根形成を調べている。さらにトリュフ畑で採集したナメクジの腸内容物をDNAバーコーディングして、野外でもアミメクロセイヨウショウロを食べているのかどうかを確認している。

ナメクジの体内を通過することで、胞子の大部分が子のうから離れ、胞子の表面構造に変化が見られる。こういった変化があることで、コントロールと比べると菌根形成が起こりやすかったのではないかと考察している。またトリュフ畑のナメクジの腸内容物からも胞子が含まれていることが示されたことから、哺乳類や節足動物だけではなく、ナメクジもトリュフの仲間の胞子散布に貢献している可能性を示した研究。
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オオサイチョウとシワコブサイチョウのねぐら利用と種子散布への意義 [原著]

Naniwadekar et al. (2021). Roost site use by Great (Buceros bicornis) and Wreathed (Rhyticeros undulatus) Hornbill and its implications for seed dispersal. Biotropica https://doi.org/10.1111/btp.13039

インドのサイチョウ研究グループによるGPSを利用した個体追跡データを活用した一連の研究の一つ。アジアのサイチョウ類の中には、集団ねぐらを利用することが良く知られている種がいる。ねぐらとして利用される樹種や特定のねぐらを利用する個体数の変動などは知られているが、個体ベースではどのようなねぐら利用パターンを示すのか不明であった。さらに種子の体内滞留時間のデータなどを考慮することで、ねぐらを利用する個体があまり散布先として適当ではないとされるねぐらにどのくらいの種子を散布しているのかを推定している。

調査地はインド北東部のPakke Tiger Reserveで雄のオオサイチョウ4羽とシワコブサイチョウ1羽にGPSタグをつけて、追跡調査を行っている。19時の位置情報をねぐらとして、日々、どのように変わるのかを計算している。それらの位置情報が200m以内の場所は同じねぐらと仮定することで、ねぐらの位置を決めている。オオサイチョウは川から離れた場所にねぐらがあることが多いが、シワコブサイチョウは川に近い場所がほとんど。オオサイチョウもシワコブサイチョウも営巣場所からは離れた場所にねぐらがある。種子散布の視点からは、ねぐらに散布される種子の割合は平均10%(7-17%)と多くはないことが示されている点。体内滞留時間が非常に長い種子もしくは、ねぐら入りする前に食べられた分くらいしか散布されないだろうから、妥当な数値だろう。
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