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樹上カメラトラップが明らかにした植物と果実食動物の相互作用 [原著]

Zhu et al. (2021) Plant-frugivore interactions revealed by arboreal camera trapping. Frontiers in Ecology and the Environment 19: 149-151
https://doi.org/10.1002/fee.2321

Zhu et al. (2021) Arboreal camera trapping: a reliable tool to monitor plant-frugivore interactions in the trees on large scalesのポイントを短くまとめてある。一つは樹上でもネズミ類が頻繁に撮影される果実があること。もう一つはこれまでは地上性と考えられてきたハッカンが、ダム湖という特殊な環境とはいえ、樹上でも果実を採食することをとらえている。自動撮影カメラを樹上での研究にもっと応用するといろいろなことがわかるよという話。
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定量的な種子散布ネットワークを構築するための方法比較:動物を観察するか、糞を集めるか [原著]

Schlautmann et al. (2021) Observing frugivores or collecting scats: a method comparison to construct quantitative seed dispersal networks. Oikos 130:1359-1369.
https://doi.org/10.1111/oik.08175

種子散布分野でもネットワーク解析はよく使われる手法として定着してきたが、その元データを収集する手法はさまざまである。本研究では、10種の植物を観察して記録した2189回の果実食動物の訪問データに基づいた種子散布ネットワーク(seed removal network)とDNAバーコーディングを利用した3094の果実食動物の糞や吐き戻しの分析に基づいた種子散布ネットワーク(seed deposition network)を比較している。日中に結実個体を訪問して、果実を採食する鳥類では前者、夜間に結実個体を訪問して、直接観察は難しいけど、糞は見つけやすい哺乳類では後者の手法が有効になると考えられるので、両方の手法を組み合わせることが必要だろうけど、それを豊富なデータに基づいて検証している。

調査地はポーランドとベラルーシの国境にまたがるビャウォヴィエジャの森。先行研究で、11か所の調査地が設置されており、2011年から2012年に10種の結実個体での果実の持ち去りが観察されている。一方、DNAバーコーディングによる糞内容分析では2016年から2018年にかけて、トランセクト沿いで、上記の10種の近くで糞を回収している。果実持ち去りと糞・吐き戻し分析のデータは調査地ごとにプールして、前者で77個、後者で87個のplant-siteの組み合わせをサンプリングしている。ただし、調査地によっては結実していない植物もいるので、どちらかのネットワークにシカ出現していないものは除去した結果、69個のplant-siteの組み合わせを対象としている。

果実持ち去りネットワークでは、1800時間の観察で25種の果実食動物が26977個の種子を2189回の訪問で持ち去っている。糞・吐き戻し分析では、20種の果実食動物が9376個の種子を3094個の糞・吐き戻しとして散布していた。両方のネットワークで共通していたのは11種で、残りのどちらかでしか記録されていない種のほとんどは量的な貢献は1%程度だった。優占したのは鳥類5種で、前者で97%、後者で77%の種子に該当した。一方、マツテンは前者では1%未満だったが、後者では22%にもなった。まあ、テンが結実個体で果実消費するのを観察するのは難しいだろうけど、糞は目立つ場所にすることが多いだろうから、よく拾うことはできるんだろう。

基本的には、量的な貢献度が高い動物については、どちらの手法でも記録できているけど、例外がマツテンになる。ただ、両方のネットワークは全体としては類似していたが、個々の特性については、相関は見られず、果実資源量の影響が大きい様子。まあ、利用可能な資源から何を食べることができるのかがある程度決まってしまうからなんだろう。ただし、考察でも述べられているようにこの研究はカメラトラップを使っていないので、結実個体での哺乳類の果実持ち去りを過小した可能性があるが、DNAバーコーディングで、糞や吐き戻しの種同定をしっかり行うことで、追加情報を得ることができるので、今後はますます広く使われるようになりそう。
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樹上カメラトラップ:大規模に樹上の果実と果実食動物の相互作用を観察するツール [原著]

Zhu et al. (2021) Arboreal camera trapping: a reliable tool to monitor plant-frugivore interactions in the trees on large scales. Remote Sensing in Ecology and Conservation (in press).
https://doi.org/10.1002/rse2.232

樹上(最高8mの高さまで)にカメラトラップを設置して果実と果実食動物の相互作用系に注目した研究。中国の千島湖ダム湖)の22か所の陸橋島において、液果をつける18種(Symplocos stellaris、Smilax china、Symplocos paniculata、Phytolacca americana、Aralia chinensis、Ilex chinensis、Vaccinium carlesii、Rubus lambertianus、Eurya muricata、Vaccinium mandarinorum、Lindera glauca、Raphiolepis indica、Ilex rotunda、Vaccinium bracteatum、Diospyros kaki、Rhamnus crenata、Photinia parvifolia、Rhus chinensis)を対象として、のべ318か所にカメラを設置して、果実を利用する動物を記録している。カメラトラップから得られた撮影画像から、果実食の有無を5段階評価している。さらに果実食を記録するために必要な調査努力量についてもヤンバルミミズバイSymplocos stellarisとヒサカキの仲間Eurya muricataの2樹種を対象として検討している。

調査期間は2019年6月から12月で、島ごとに調査路を設定し、月2回の頻度で調査路沿いの結実個体を探して、カメラを設置している。同種の結実個体がたくさんある場合は、結実数が多い個体を選択し、同種個体に設置する場合は20m以上離した場所で設置することで、過大評価しないようにしている。自動撮影カメラはLtl Acorn6210で、果実から2m離れた位置に設置している。センサー感度はHighかNormalに設定しており、感知時に3枚の静止画と10秒の動画を撮影する設定。同定用の写真を静止画でとらえて、果実食の有無を動画で確認するのに適した設定なのか?動画10秒だと果実を食べた証拠は得られても、訪問あたりの持ち去り数を評価することは難しい。果実食の有無は5段階評価(5:カメラをおいた島で採食した、4:カメラをおいた以外の島で採食した、3:どの島でも採食しなかったが、近縁種(同じ科または属)が採食した、2:採食記録はなかったが、他の地域の文献情報に記録があった、1:カメラでも文献情報にも記録なし)して、5と4の情報に基づいた解析を行っている。

12400カメラ日の映像(1490566個の画像と動画)に基づき4399イベントで275の果実と鳥類の相互作用を記録している。低木やツルのデータが含まれているので、日本で行っている研究と比較できそう。ただ、詳細な相互作用データは本論文では扱っておらず、あくまで調査手法としてどのくらい使えそうかを検討している。5台のカメラを30日間設置したSymplocos stellarisと53日間設置したEurya muricataでは、前者が7種、後者が11種の果実食鳥類を記録している。種数累積曲線はいずれも20日間ほどで飽和するが、前者では10日間、後者では21日間の調査ですべての種を記録できている。

樹上に自動撮影カメラを設置した研究は増えつつあるけど、まだまだ報告数としては少ないし、本研究のように群集レベルを対象とした研究も限られている。イントロで、樹上にカメラトラップを応用した先行研究がまとめられているので、卒論生に読んでもらうにはちょうどよさそう。Zhu, C., Li, W., Wang, D., Ding, P. & Si, X. (2021) Plant-frugivore interactions revealed by arboreal camera trapping. Frontiers in Ecology and the Environment 19: 149-151も併せて読むとよさそう。
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森の庭師:サイチョウ類が大型種子の空間分布を決める [原著]

Naniwadekar et al. (2021) Gardeners of the forest: hornbills govern the spatial distribution of large seed. Journal of Avian Biology2021: e02748
https://doi.org/10.1111/jav.02748

インドのサイチョウチームによる一連の種子散布論文の一つ。先行研究と比べるとより広い空間スケールで、サイチョウ類による種子散布の効果を検討することを試みた研究。大型種子をつける樹木5種(Beilschmiedia assamica、Phoebe sp.、Canarium strictum、Dysozylum sp.、Alseodaphne petiolaris)に注目することで、サイチョウルイによる種子散布の影響をより明瞭に示すことを狙っている。

調査地はインド北東部で、結実個体での果実の持ち去りの観察時間は12時間から34時間であまり多くはない。種毎の解析は厳しいので、サイチョウ類、ミカドバト類、小型鳥類、哺乳類の4つの機能群にした解析を行っている。哺乳類をひとまとめにするのはちょっと乱暴に見えるけど、霊長類やリス類はそれほど多く見られなかったらしい。サイチョウ類の個体数と餌植物の密度は8本(少なくとも500m離れた)の長さ1.5kmの調査路を設定して計数している。各調査路を500mに区切って、計24か所の調査区を設定した形にしている。

各調査路の両側10mでGBHが30cm以上のサイチョウ類の餌植物を計数しているけど、こちらは先行研究ですでに計数したもの。種子散布量の調査として、調査路沿いに200か所の1平方メートルの調査区を設定して、大型種子の散布の有無を定期的に確認している。さらに実験的に種子を150m間隔で設置して、散布後の種子の運命を追跡している。実生と稚樹については、調査路の両側1.5m幅について、同定可能な4樹種(Alseodaphneを除く)を計数している。最終的には、これらの情報を積み重ねて、最終的にサイチョウ類の種子散布量は個体数密度が高いところでは、1平方キロメートル当たり、大型種子12,700個に該当すると推定している。

Publonsに査読履歴が公開されているんだけど、最近、この地域のこの分野の論文はレビューしたばかりだから、この論文はとっても重要である、なんてコメントはコレットさんにしか書けない。
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自動撮影カメラを利用したボルネオ熱帯雨林の樹上性哺乳類のインベントリ [原著]

Haysom et al. (2021) Life in the canopy: Using camera-traps to inventory arboreal rainforest mammals in Borneo. Frontiers in Forests and Global Change
https://doi.org/10.3389/ffgc.2021.673071

ボルネオの熱帯雨林で自動撮影カメラを利用して、伐採の有無と地上と樹上で記録できた哺乳類を比較した研究。伐採履歴を環境傾度として、自動撮影カメラで哺乳類相を比較するアプローチはよく行われている。ただし、伐採された森で意外と哺乳類の種多様性が高い理由の一つとして、本来、樹上性の傾向が強い哺乳類が、地上もよく利用するようになった可能性もある。自動撮影カメラで林冠を利用する哺乳類相を扱った研究はアフリカと新熱帯で5つあり、そのうち3つは樹上と地上の両方を扱っているが、東南アジア熱帯では、本研究が初めて。

調査地はMaliau Basin(伐採なし)とMt. Louisa(伐採あり:1978~2008)の2か所の調査地。伐採履歴のある森の方が、樹高が低く、林冠の閉鎖率が低く、樹上の通り道も少なく、林冠ギャップが多いという特徴がある。調査期間は2017年10月から2019年9月までの2年間で、各設置場所では7-8か月。自動撮影カメラはReconyxのHyperfire HC500(一式で464ドル、高い)を利用して、1.5km平方に1組を設置している。地上は地表0.3m、樹上は平均36m(伐採なし)と19.3m(伐採あり)の高さに設置している。誤作動を避けるためにカメラは幹に設置して、感知エリアの葉などは除去している。樹上のカメラは北か南に向けることで、露出オーバーを避けている。一度に3枚の静止画を撮影する設定で、撮影インターバルの設定はしていない。ただ、解析上は30分間空いたものだけを独立データとして扱っている。

計15817CTNで、哺乳類55種8008枚が撮影された。30種は地上のみ、16種は樹上のみで撮影され、9種が両方で記録されている。ただ、追加で設定していた樹上のカメラデータも入れると樹上で18種が記録されている。多変量解析などの結果も明瞭に地上と樹上が区別される結果。面白いのは、調査コストを計算しているところで、樹上50台と地上50台のコストと地上100台のコストを計算していて、前者が約10,980ドル、後者が4,920ドルと約2倍のコストがかかる。でも2倍ですむなら、調査する価値はあるんじゃないかな。

最近はiNextパッケージでRarefaction curvesを描いた論文を読むことが多いので、一度使ってみよう。
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ボランタリー炭素市場を用いた種子散布損失の経済的影響評価 [原著]

Bello et al. (2021) Valuing the economic impacts of seed dispersal loss on voluntary carbon markets. Ecosystem Services 52:101362.
https://doi.org/10.1016/j.ecoser.2021.101362

2012年創刊の新しい雑誌だけど、種子散布関係の論文もチラホラ見かける。このグループはdefaunationの研究を世界的にもリードしているが、その経済的な価値を炭素ベースで評価することを試みている。果実食動物がいなくなると炭素隔離に貢献している大型種子をもつ樹木の種子散布に影響を与えると予測されている。本研究では、3種の大型の果実食動物に注目して、これらの種子散布機能を喪失することで、どのくらいの影響になるのかを炭素ボランタリー市場価格を利用して評価している。

対象動物は霊長類2種(ウーリークモザル、カッショクホエザル)と大型鳥類1種(カオグロナキシャクケイ)。いずれも主要な果実食動物。大型種子をつける樹木でクスノキ科のCryptocarya mandioccanaをモデルとしてDefaunationの影響を検討した先行研究(Culot et al. 2017)の結果を利用している。先行研究では、種子散布者と種子捕食者が減少するレベルに合わせて、どの程度、本種の更新過程に影響が及ぶのかを評価している。また本種は大型種子で材密度が高く、大型動物に種子散布を依存している。種子サイズ、樹高、材密度には正の相関関係があることから、本種と同じ特徴を持つ樹種に拡張することで、森林への影響を評価している。

シミュレーションでは、先行研究の調査地3か所の毎木調査データを活用している。そのうち、モデル樹種と同様な散布形質をもち、3種の種子散布者が利用する植物を選択している。最終的には、種子サイズが12mmを超える14種1077個体の樹木(全体の8%)が対象になっている。さらに炭素貯留量の減少をシミュレーションするために各散布者が絶滅したシナリオと種子捕食者がすべている場合、大型がいない場合、大型と中型がいない場合の3段階で計算して、炭素の取引価格に換算している。

イントロ部分で送粉や野生動物観察などの生態系サービスの経済的価値を評価した研究や種子散布を対象とした研究(トウガラシ、ドングリなど)がまとめてあるので、一通り読んでおきたい。たまにしか読まないから気にしていなかったけど、この雑誌、IFは5を超えているんだ。
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タイヨウチョウ不在の東アジア地域では、ジェネラリストの鳥類がナガミカズラの有効な送粉者 [原著]

Chen et al. (2019) Effective pollination of Aeschynanthus acuminatus (Gesneriaceae) by generalist passerines, in sunbird-absent East Asia. Scientific Reports 9:17552
https://doi.org/10.1038/s41598-019-53035-2

イワタバコ科ナガミカズラ属はタイヨウチョウやクモカリドリなどの鳥類が花粉媒介することが知られている。本研究では、それらの鳥類が分布していない場所で、何が花粉媒介を担っているのかを調べている。アジアの温帯では、冬に咲くビワやツバキなどで鳥類による花粉媒介が知られているが、熱帯地域に多いタイヨウチョウなどの専門家ではなく、日和見で花蜜を利用する鳥たち(メジロとか)がやってくることが知られている。本研究で調査対象としているナガミカズラAeschynanthus acuminatusは黄緑色の花弁で、かつ花筒が短いので、鳥媒花らしくない花をつける。

調査地は台湾北部の2か所でタイヨウチョウがいない地域。送粉者シフトを起こしている可能性、ジェネラリストの鳥類が訪花者であれば、あまり効率が良くない可能性、ジェネラリストの鳥類が効率よく送粉しているのであれば、花弁の色や形、花蜜特性などの変化が関係している可能性などを検討している。観察方法は直接観察が18時間、ビデオカメラの記録が48時間。夜間にも両方の観察を行い、夜行性動物による訪花の有無も確認している。夜間のビデオカメラはSony Handycam Seriesを利用。訪花の有効性はめしべ上の花粉をSEMで観察して確認している。さらにコントロール、人工授粉(自家・他家)、袋掛け処理を行っている。花蜜の成分分析だけではなく、花弁や葉の反射率も測定している。

訪花が観察されたのは、メジロチメドリ(ダルマエナガ科)、ミミジロチメドリ(ガビチョウ科)、カンムリチメドリ(メジロ科)の3種。チメドリ科が細分化された影響で、和名にチメドリが残っているのでややこしい。コウモリやスズメガなどは記録されていない。Figure 2の訪花時の花粉媒介の様子をイラストにしたものがかわいい。運ばれている花粉のほとんどが同種で、同時期に開花しているPrunusやMachilusの花粉はわずか。袋掛けすると結実せず、自家受粉、タカ受粉、コントロールの順に高く、訪花した鳥類が有効に花粉媒介を行っている結果。人工授粉が低すぎる気がするけど、花粉の質の差なのか?これまでの東アジア地域で鳥媒介の花として知られてきたビワやヤブツバキでは、鳥以外にも昆虫が花粉媒介に貢献していたが、本種では鳥だけである点がユニーク。
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森林動物が減少することでSDGsの達成を阻害することについて [原著]

Krause & Tilker (2021) How the loss of forest fauna undermines the achievement of the SDGs. Ambio (2021).
https://doi.org/10.1007/s13280-021-01547-5

熱帯地域における大型動物の減少が4つのSDGs:飢餓ゼロ(2)、健康と福祉(3)、気候変動対策(13)、陸の豊かさ保全(15)とどのように関係しているのか、現状を整理し、さらに熱帯地域における大型動物の減少にともなう危機にどのように対応していくのかを提言した研究。確かに森林破壊(deforestation)や森林劣化(forest degradation)は政治的にも注目されてきたけど、3つ目の「de」のdefaunationは無視されてきた(この言い方は面白い)。

飢餓ゼロ(2)の視点からは、野生動物に生活を依存する地域住民の資源基盤を不安定化することが示されている。ただ、野生動物の肉から得ている栄養を代替できないとdefaunationを進行させることにもつながる。健康と福祉(3)の視点からは、野生動物は人獣共通感染症の宿主であり、近年の大規模な感染症の大部分は熱帯地域の野生動物やその消費行動と関連している。ケニアではdefaunationによる栄養カスケード効果でネズミの密度が高まった結果、ダニ媒介性病原体の拡散や流行に影響を与えた場合もある。気候変動対策(13)の視点からは、大型動物に種子散布を依存することが多い大型種子をつける樹木の多くが、材密度が高く、巨木になる傾向がある。その結果、高い炭素貯蔵能力を持つので、defaunationによって熱帯林の炭素貯蔵能力を著しく低下させる可能性がある。ただし、森林破壊や森林劣化に対するREDD+など枠組みでは、現状、defaunationに対処できていない。陸の豊かさ保全(15)の視点からは、defaunationはそもそも森林破壊や森林劣化、さらには野生動物の過剰利用によって引き起こされているので、直結する内容。

DefaunationによりSDGs2、3、13、15の達成が危ぶまれるが、defaunationの研究は生態学的な側面に焦点を当てたものがほとんどで、他のアプローチが必要になっている。森林伐採はヒトが主体となって行うものであり、社会的・文化的側面を含めた形の研究を行うことが必要。ただし、地域の社会経済的・文化的背景、規範、制度、統治構造に大きく依存するので、そういったことを踏まえた保全アプローチを設計する必要がある。さらには伝統的な生態学的知識を活用すること、野生生物の商業取引の抑制や管理、気候変動対策の森林管理に動物も含めること、トレードオフがあることを認識すること、生物多様性損失のグローバル性の理解と取り組みなどが提言されている。
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追熟型果実と非追熟型果実の進化生態学 [原著]

Fukano & Tachiki (2021) Evolutionary ecology of climacteric and non-climacteric fruits. Biology Letters 17: 20210352.
https://doi.org/10.1098/rsbl.2021.0352

果実とそれらを利用する動物との間に見られる果実シンドロームは古くから知られていて、さまざまな果実形質(色、サイズ、匂い、栄養、防衛物質)とそれらを利用する動物との対応関係が調べられてきた。この研究では、これまで検討されてこなかった果実の追熟の有無に注目して、種子散布者との関係性を検討している。具体的には、追熟型果実は地上で採食を行う動物、非追熟型果実は樹上で採食を行う動物に対する適応ではないかを80種の果実の形質とそれらの種子散布者の文献調査から検討している。ただ、有効な種子散布者が特定されている植物は多くはない。そこで、潜在的な種子散布者となる動物の分類群を組み合わせた複数のデータセットを作成し、それらを解析することで同様な傾向が見られるかどうかを検討している点が解析上のポイントになっている。

結果はシンプルで、系統関係に関わらず複数の分類群で追熟型の果実をつける植物が見られる。また追熟型では地上性の動物に種子散布されている割合が高く、非追熟型では樹上性の動物に種子散布されている割合が高いので、仮説を支持する結果。この研究の仮説とは逆のパターンを示している植物では(追熟型なのに樹上でも食べられている、非追熟型なのに地上でも食べられている)、面白いことが隠されているかもしれないと妄想が膨らむ。

最初にSNS上で情報を見かけたときには、これ何が新しいんだっけ?と思い、その次にJanzenが何か書いていなかったっけ?と思った。確かにJanzenの論文はイントロで引用されているけど、その後、誰も検証していなかったということらしい。果実形質と種子散布者の関係はわたしもいくつも論文に関わってきたけど、確かに追熟の有無を考慮した論文を読んだ記憶はないし、査読した記憶もない。イチョウの論文書くときに哺乳類しか記録されなかった理由の一つとして、引用すればよさそう。まあ、柔らかくなってからも食べられない理由にはならないけど。

カオヤイで見ていたカンラン科Canarium euphyllumは黒っぽい果実で、樹上ではサイチョウ類が食べて、落果は哺乳類が食べる。果肉は硬くって、落果後しばらく放置すると柔らかくなる点では追熟型。ただ、宿舎に持ち帰って実験処理しようとしていた果実をスイロクに食べつくされたことがあるので、硬いままでも結構食べてしまう。Canaiumの仲間は緑色の果実で、落果後に哺乳類が食べるものが多く含まれているので、本来は追熟型なんだろう。
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脊椎動物による種子捕食が減少しても、その分、菌類や昆虫類が種子捕食する [原著]

Williams et al. (2021) Fungi and insects compensate for lost vertebrate seed predation in an experimentally defaunated tropical forest. Nature Communications volume 12, Article number: 1650 (2021)
https://doi.org/10.1038/s41467-021-21978-8

狩猟対象である大型哺乳類が減少した影響を他の生物がカバーするようなことが起きているのかを実験的に調べた研究。森林の空洞化の説明で、大型動物が減少し、それらの動物に依存していた植物では、種子散布過程が崩壊すると話してしまうけど、散布されなかった種子には、同種密度や距離に依存した死亡率があることが前提。ただ、これらの要因で種子の死亡率が上昇しても種子捕食を行う大型動物が減少することで、結果的に種子の死亡率が相殺されるかもしれないので、種子散布と種子捕食の両方を調べることが重要になる。

この研究では、ボルネオ島サバ州のダナムバレーで、2019年8月の一斉開花を利用して、5樹種の散布後の種子食害の影響を対象にしている。すでに小型哺乳類や昆虫類が大型動物による種子食害の影響を相殺する事例は新熱帯やアフリカから報告されているけど、この研究では、菌類にも注目している点が新しい。コントロール、大型哺乳類(排除実験)、大型哺乳類とネズミ類(排除実験)、大型哺乳類とネズミ類と昆虫類(殺虫剤)、大型哺乳類とネズミ類と菌類(殺菌剤)、すべて排除の6通りの実験(10反復)を行うことで、それぞれの種子食害の影響を調べている。排除実験区は9 × 11 mの面積を1.8mのフェンスで囲った形で、上が開いているので、リスは入れそう。ただし、大型動物の定義が1kgより重いになっている点は注意が必要。調査対象樹種は、ムクロジ科リュウガン(これだけ市場で購入)、フタバガキ科Dryobalanops lanceolata、Parashorea malaanonan、Shorea leprosula、Shorea macrophyllaの計5樹種。種子重は最も軽いShorea leprosulkaが0.39gで最も重いShorea macrophyllaが11.75g。

大型哺乳類による種子捕食の効果はかなり大きいが、大型哺乳類を排除してもトータルの死亡率はあまり変わらない結果。大型哺乳類・ネズミ類を排除しても同様で、その分、昆虫や菌類による死亡の割合が高まる。ただ、Parashorea malaanonanは大型哺乳類があまり捕食せず、排除しても食害率は低下しない。殺菌剤は5種をプールすると効果がないけど、Shorea leprosulaとDimocarpus longanは個別に解析すると影響がでる。重要なのは、ネズミ類による捕食はそれほど重要ではなさそうという結果で、新熱帯やアフリカ熱帯とは異なる。ただ、それは今回の排除実験で大型哺乳類を排除している面積が非常に狭いためとも考えられるので、解釈には注意が必要。ゾウがいるところで排除実験やって、破壊されなかったのかと思うけど、種子のモニタリング期間が比較的短い(11週)からうまくいったのか。

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