SSブログ

大型散布体をもつ樹木に対する大型の果実食動物による種子散布の重要性 [原著]

Sato (2022) Significance of seed dispersal by the largest frugivore for large‑diaspore trees. Scientific Reports 12:19086
https://doi.org/10.1038/s41598-022-23018-x

マダガスカルでチャイロキツネザルの種子散布を研究している佐藤さんの研究。これまでは、チャイロキツネザル視点の研究成果が多かったけど、今回は植物側の視点から、チャイロキツネザルによる種子散布の有効性をセンダン科Astrotrichilia asterotricha(AA)とウルシ科Abrahamia deflexa(AD)の2種を対象として評価した研究。AAは他の果実が多くない乾季、ADは他の果実もみられる雨期に結実するところがポイント。これら結実木での直接観察による量的な要素の推定、チャイロキツネザルの種子散布をシミュレートして、糞まみれ種子を結実個体から近い場所と離れた場所に実験的に設置して、そこでの種子から実生での生存過程追跡調査した質的な要素の推定を行っている。

AAの果実サイズは17.5 × 19.8 × 19.0 mmで、散布体のサイズが15.4 × 17.8 × 16.9 mmで、種子が1から3個含まれている。ADの果実サイズは23.8 × 15.3 × 15.0 mm、種子サイズは23.0 × 14.0 × 13.7 mmで、同程度。観察時間はAAで360時間、ADで280時間で、直接観察が夜間も行われていることは素晴らしい。夜行性の生き物を対象にするのは大変だ。AAでは56時間だから、観察時間の15%くらいで動物が記録されているけど、ADは8時間に満たない(3%未満)なので、なかなかつらい。AAでは哺乳類4種と鳥類10種、ADでは哺乳類6種と鳥類7種が記録されているが、果実を丸呑みして種子を散布しているのは両樹種ともにチャイロキツネザルのみ。より小型のキツネザルには果実サイズが大きすぎる様子。AAでは、林冠が大きく、林床への落果量が多い個体、ADでは、林床への落果量が多い個体が選択されているので、大きな木によく集まっている様子。AAでは、結実量の58.8%、ADでも結実量の26%がチャイロキツネザルによって持ち去られている。前者は他に果実も少ないので、繰り返し訪問されるが、後者はたまにしか来ないということが関連しているようす。

散布後の運命については、散布体または種子を結実個体の近くと離れた場所に実験的に設置して、その後の運命を追跡することで評価している。チャイロキツネザルの小型の糞を模倣して、散布体や種子と一緒に糞を設置しているのがポイント。設置場所の光条件の推定には、竹中さんのCANOPONが使われている。AAでは、散布先で発芽はするけど、そのほとんどが短期間に死滅するが、光条件のよいところは生き残っている。ADでは、結実個体の周辺ではほとんどの種子がネズミや昆虫の食害で死亡するけど、離れた場所では、一部が生き残る。前者では、大量に運ばれた種子の一部が生き残り、後者では結実個体から離れた場所に運ばれた種子が生き残るという形で、チャイロキツネザルが貢献していることを示している。

わたしもAglaiaとCanariumの論文は別々にするんじゃなくて、同じような動物相に種子散布される大型種子をつける樹種として一つの論文で発表したほうがインパクトあったのではないかと思うけど、学位論文としてまとめるには、Canariumのデータは間に合わなかったんだな。
コメント(0) 

鳥類に散布される果実色の進化における検出性の役割 [原著]

Tedore et al. (2022) The role of detectability in the evolution of avian-dispersed fruit color. Vision Research 196:108046
https://doi.org/10.1016/j.visres.2022.108046

鳥類に散布される果実の色彩の主要な機能が検出性の最大化であるとすれば、鳥類が散布する果実でもっとも一般的な色は、鳥類にもっとも検出されやすい色と考えられる。著者らが先行研究で開発したマルチスペクトルカメラを利用して、鳥類の視覚系(UVS:U, SU, M, and L conesとVS:V, SV, M, and L cones、それぞれピーク紫外線感度〜370と409nm)を再現して、野外の果実がどのような色に見えるのかを調べている。ただし、果実の色の進化には霊長類が関わっている可能性もあるので、霊長類がいないスウェーデンとオーストラリアを調査地として計63種の果実を撮影している。実際は83種を撮影したが、散布者不明や哺乳類型果実のデータは解析に利用していない。

果実の色は9つの色(red, purplish-UV, bluish-UV, pink, orange, orangish-red, blue, UVish-purple, purple)に分類されている。たとえば、青紫色は、鳥類の紫外線錐体が最も励起し、かつ青色錐体も強く励起する場合である。赤は最も一般的な色であり検出性が高いが、2番目と3番目に一般的な色である紫外光と青外光(ヒトが「黒」と呼ぶ色)は検出性が最も低い色である。後者の2色は、VS型の鳥類よりもUVS型の鳥類の方が感知しやすいが、両方の視覚系で最も感知しにくい色であった。UVish-purple、ピンク、オレンジなどのまれな果実の色は両方の視覚系で検出しやすい。含まれる種数が多い果実色と識別性に相関がないことから、識別性の最大化は果実の色の進化の主要な原動力ではなかったことが示唆された。

スウェーデンとオーストラリアの植物だと、属レベルであれば日本と共通している種も見られる。青い果実はElaeocarpus grandisとかAlpinia caeruleaなど、UVish-purpleはツルボラン科キキョウラン属のDianella atraxisとD. caeruleaが含まれており、いずれもオーストラリア産。なるほど、こんな紫のことをUVish-purpleとしているのか。日本のキキョウランもネット検索した限りは似たような色の果実らしい。一度見てみたいけど、南だなあ。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。