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鳥類の渡りと果実量の変動にともなう種子散布ネットワーク構造の長期動態 [原著]

Ohkawara et al. (2022) Long‑term dynamics of the network structures in seed dispersal associated with fluctuations in bird migration and fruit abundance. Oecologia DOI:10.1007/s00442-021-05102-7

10月中旬の秋の渡りのシーズンに織田山鳥類観測ステーションで行われている標識調査時に糞内容分析を行い、さらに周辺の結実フェノロジーをモニタリングして、種子散布ネットワーク構造の長期動態を調べた研究。様々な地域での種子散布ネットワーク構造が描かれるようになって、ネットワーク構造を地域間比較、同一地域の季節感比較の研究もでてきた。年変動についても考量した研究が出てきたけど、10年を超えるものはまだまだ稀。本研究では、2005年から2016年にかけて、結実量の年変動、同時期の渡り鳥の個体数と種構成の年変動を調べて、両者のパターンに基づいてネットワーク構造を類別化し、ネットワーク構造を入れ子型とモジュール型に基づいた比較、およびその構造に影響を与える要因を抽出している。

結実フェノロジーの調査は調査ステーションの捕獲サイト(0.6ha)とその周辺のコース(10m×10km)の範囲での結実状況をツルや草本も含めて毎年調べている。結実数が少ない植物はすべて計数、多い植物は果序あたり、枝あたり果序数、個体あたり枝数と掛け算して推定している。散布者となる鳥類は、標識調査時にリリース前の個体が鳥袋のなかで排泄または吐き戻した種子を回収して、同定している。

調査期間中に植物は97種8067個体が結実しており、カラスザンショウとアカメガシワがほぼ毎年、優占していて23%~89%。個体あたりの結実数や道沿いで観察していることを考えるとそうなるだろう。ただ、その影響を除いても優占種の結実数は明確な年変動パターンが見られ、奇数年に結実数・結実種数ともに多く、偶数年に少ない。一方、鳥類は20種16722個体が捕獲され、1日あたりの捕獲数は36~122個体で、年によってかなりばらつく。15種6652サンプルのうち、1671サンプルに60種の植物が含まれていた。主な渡り鳥はシロハラ、マミチャジナイ、メジロの捕獲個体数と結実数や結実種数に明確な関係は見られない。年ごとの両者の傾向に基づいて、区分すると果実数も果実食鳥類も多い年(3年)、果実数は少ないが、果実食鳥類が多い年(5年)、果実数も果実食鳥類も少ない年(4年)の3グループになる。

果実数が少ない年には、入れ子型になり、シロハラ、マミチャジナイが、果実数が少ない年にはさまざまな植物を利用することで、ジェネラリストっぽくふるまうことが関係していそう。渡りの途中だと果実が少ない年には、普段は食べないような果実を食べることがでてくるんだろうな。

わたしが初めて見学したのは2015年の秋で、ちょうどこの論文のデータだと終わりの方の話。大河原さんたちがネットワーク関係の情報を収集しているのは知っていたけど、なかなか話を聞く機会がなかった。たまたまうちの職場と金沢大学で教育研究活動共同研究に対して小規模の研究費が採択されて、何度か調査にも同行させていただいたので、あのデータが公表されたのかと思うと感慨深い。個人的に面白いと思うのは、この結実フェノロジーのデータと石川県のブナ科豊凶パターンとの対応関係。基本、奇数年に多くて、偶数年に少ないパターンは一致している。全国的にはどうなっているのかを知りたい。

調査地の様子などは大河原さんのサイトにも掲載されている。
http://ecology.s.kanazawa-u.ac.jp/lab3/Ohkawara3/INDEX/Ohkawara.otayama.html
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