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カタルーニャの市街地でトベラを食べる鳥種 [原著]

Bracho Estévanez, C. A. (2020) Trophic interactions between Japanese mock orange Pittosporum tobira and autochthonous frugivorous birds in a town in Catalonia. Revista Catalana d’Ornitologia 36:74-78.

トベラを食べる鳥の文献情報を調べていたらヒットした文献。スペインのカタルーニャの市街地に植栽されているトベラが侵入種になる可能性として、種子散布に関わる鳥を記録している。地中海沿岸では、すでに侵入種として認識されている植物。4月から5月に開花し、8月ごろに結実するが、翌年の3月や4月になっても果実が残っているようす。まあ、スペインでも好んで食べられるものではないらしい。スペインで新型コロナが広がり、自宅待機期間中の3月25日にオスのズグロムシクイが種子を食べるのを観察したことを契機に短期間の観察を行っている。具体的には、トベラを食べる鳥を記録するのとトベラとのつながりの強さを評価することを目的としている。

観察は2020年3月から4月にかけて朝7回(8:00-10:00)と午後2回(16:00-18:00)の計18時間の観察。観察期間中に5種37回の訪問を確認している。1時間に2回くらいは観察できる計算か。クロウタドリ(18回)、ズグロムシクイ(9回)、クロガシラムシクイ(6回)、ヨーロッパコマドリ(3回)、ホシムクドリ(1回)が訪問し、食べているのは1回に1個がほとんど。いずれも在来種の有効な種子散布者と考えられており、トベラに関してもおそらく種子食害はしていないだろう。

短期間の観察に基づいた情報だけど、スペインでも結構最後まで食べられないんだろう。
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気候変動が植物と動物の相互作用に及ぼす影響の形質ベース評価 [意見]

Schleuning et al. (2020) Trait-based assessments of climate-change impacts on interacting species. Trends in Ecology and Evolution 35:319-328. https://doi.org/10.1016/j.tree.2019.12.010

気候変動が生物多様性に及ぼす影響を評価するような先行研究ではほとんど無視されてきた植物と動物の相互作用に注目した意見論文。形質ベースの枠組みを導入することで、気候変動に対する種間相互作用の反応を予測することを狙っている。具体的には、空間的・時間的ミスマッチ、新規の相互作用と二次的な絶滅、植物の移動能力の改変の3つの経路を想定して、それに対応する機能形質についてまとめている。

気候変動に対する動物と植物の間の空間的・時間的ミスマッチは、例えば、相互作用が見られる動物と植物の温度耐性の違いとかで生じてくる。動物と植物相対的な数が変化したり、どちらかが絶滅したところへ、新しい種が分布を広げた結果として生じた相互作用によって軽減されたり、温度変化に素早く反応して、あまりミスマッチが生じなかったりということが考えられる。また気候変動によって新しく相互作用が結ばれる場合もあれば、必須のパートナーを失うことによる二次的絶滅につながる場合もある。例としては、送粉系を取り上げており、ある花に特殊化した送粉者が花の絶滅にともなって絶滅する場合や別の花種が移入することで、新たな関係を結ぶ事例などを想定している。最後は大型の種子散布者を喪失することで、散布カーネルが大きく変化して、長距離散布の可能性が減少することで、植物の移動能力が低下するようなことを想定している。

これら3つの経路にかかわる機能形質として、response trait、matching trait、dispesal traitをあげて、これらを用いて、気候変動の影響を予測する枠組みを提案している。
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イギリスの農地で不均等に分布するノハラナメクジの高密度パッチの安定性 [原著]

Forbes et al. (2020) Stability of patches of higher population density within the heterogenous distribution of the Gray Field Slug Deroceras reticulatum in arable fields in the UK. Insects 2021, 12, 9. https://dx.doi.org/10.3390/

ノハラナメクジ論文シリーズの最後。ただ、個体追跡しているデータではなく、ナメクジの高密度区を狙って農薬散布することで、農薬を使う量を減らすことができないかを検討する際の基礎情報を22か所の農地で複数種の作物を栽培した場所を3シーズンにわたって集めた研究。

各調査地では1haを10×10mに分割して、それぞれの区画内にトラップを設置している。1年目は14日間隔、2年目は毎月に減らしてサンプリングサイトを増やすといった形でサンプリングを行っている。得られた個体数データが場所、当年作物、前年作物、年などで説明できるのかをGLMで解析している。ノハラナメクジの集中度はTaylor’s Power Lawで解析、さらに分布パターンをHotspot Analysisで視覚化している。

基本的には、ノハラナメクジがある程度、活発に活動している時期であれば、、個体数密度が高い場所が存在して、そういった場所を狙って農薬散布するのがよさげという話らしい。これは個体ベースのデータは掲載されていなかったので、あんまり関係なかった。
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農地におけるノハラナメクジの移動パターン [原著]

Ellis et al. (2020) Movement patterns of the grey field slug (Deroceras reticulatum) in an arable field. Scientific Reports 10:17970 (2020). 10.1038/s41598-020-74643-3

ノハラナメクジを異なる密度で放逐した個体の追跡調査から、移動パターンについて検討している。ノハラナメクジはかなり高密度な集団を作るらしく、それをコントロールできれば、ナメクジ被害をうまく抑えることができるのではないかというアプローチ。

Forbes et al. (2020)で用いたRFIDタグを利用した個体追跡データに基づいた研究。タグの付け方は同じ方法を利用しており、14日間のリハビリ後、野外に放逐した個体を10時間で10回の位置情報を記録している。ここから得られたデータに対して、discrete-time random movement frameworkを応用して、移動パターンの解析に利用している。

放逐直後の移動パターンは高密度区ではほとんど動きがないのに対して、低密度区では移動する個体がほとんどで、他の結果からも密度依存的な移動パターンを示す。ただし、高密度区は11個体のグループが一つだけで、低密度区は1個体が17グループあるので、高密度区のデータは追加収集する必要はありそう。
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RFIDを利用したノハラナメクジの個体追跡 [原著]

Forbes et al. (2020) Locomotor behaviour promotes stability of the patchy distribution of slugs in arable fields: Tracking the movement of individual Deroceras reticulatum. Pest Management Science 76(9):2944-2952.
https://doi.org/10.1002/ps.5895

ヨーロッパで農業害虫であるノハラナメクジを対象として、radio frequency identification (RFID) tagsを利用して個体追跡を行っている研究。最初に実験室条件下でタグをつけた個体の生存や採食、産卵、速度、移動距離などを調べて、タグの影響がないことを確認している。次にタグをつけた個体を農地に放逐し、春と秋に追跡調査を行っている。

大型のナメクジでの先行研究はあるが小型のナメクジではタグの影響が大きくなる可能性があるので、タグ埋め込みと二酸化炭素麻酔と接着材、タグ埋め込みと二酸化炭素麻酔、二酸化炭素麻酔と切り込み、二酸化炭素麻酔、コントロールの5つの処理を20個体ずつのノハラナメクジに行っている。その後28日間、元のケージに戻して観察を続けている。野外調査用には別の個体を捕獲して、タグ埋め込みと二酸化炭素麻酔処理を施して、14日間の回復期間ののち、放逐して追跡調査を行っている。

肝心の移動距離は実験室条件下では1時間平均50cmほどで、タグのアリなしでは有意差がない結果になっている。春に野外に放逐した個体の追跡結果では、5週間の追跡期間で、放逐場所からの移動距離は平均79cmで、非常に狭い範囲しか動いていない。ただし、1週間間隔ではもっと長く165cmになっている。採食時に長い距離を移動することもあるが、特定の場所に戻るようなことをするらしい。秋の実験ではもう少し移動距離が長く、平均102cmで、最大408cmに到達した個体もいる。

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森林と庭における移動式アンテナを使ったPITタグ付きナメクジの行動追跡 [原著]

Nyqvist et al. (2020) Tracking the movement of PIT-tagged terrestrial slugs (Arion vulgaris) in forest and garden habitats using mobile antennas. Journal of Molluscan Studies 86(1):79-82.
https://academic.oup.com/mollus/article-abstract/86/1/79/5756167

数年前にサンショウウオをPITタグで追跡した研究の話を聞いた時に大型のナメクジなら、同じような手法で個体追跡できるんじゃなかろうかと思っていたけど、まさにそんな研究がArion vulgarisを対象として行われていた。

不勉強で知らなかったのだけど、ナメクジにPITタグをつけた研究はこれが最初ではなく、2001年にすでにPITタグをつけて行動圏を調べた研究がActa Oecologicaに掲載されている。先行研究で使われたのと同じ種を対象として(先行研究は同定ミスで種名が異なって表記)、スウェーデンのカールスタードにおいて、庭と森林の二つの環境におけるArion vulgarisの行動追跡を行っている。

2018年9月17日と18日に64個体(庭54個体、森10個体)のArion vulgarisを捕獲し、麻酔をかけて12mmのPITタグを埋め込んでいる。このうち3個体はタグをつけている途中で死亡しているので、61個体(庭51個体、森10個体)を実験に利用している。9月19日に捕獲した環境で放逐し、追跡調査を行っている。ただし、このうち庭の3個体と森の1個体は放逐場所から移動しなかったので解析からはのぞいている。放逐個体は平均6.9gなので、ヤマナメクジなら楽勝サイズ。

2018年9月21日から10月11日の間に5回、日中と夜間の調査を行っている。PITタグと専用アンテナを使い、ナメクジを放逐した場所からだんだんと探索範囲を広げていくやり方で庭では800m2、森では1200mを探索している。一日の移動距離は0から3.5mで、平均0.7m。行動圏の中央値は庭で2.5m2、森林で20m2とかなりばらつく。森林では最大111m2。ただ、先行研究では最速2時間で7m移動したことも知られている種らしい。

うちの職場からはアクセスできない雑誌なので、リサゲ経由で著者に依頼して、Proofを送ってもらった。しばらくナメクジ論文が続きます。
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