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どのくらい親木から離れたところで更新している? [書籍]

Hardesty (2007) How far do offspring recruit from parent plants? A molecular approach to understanding effective dispersal. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 12, pp. 277-299.

Ecology Letterに掲載されていた論文にデータを追加したもの。BCIの50haプロット(実際に親候補としてサンプリングしているのは84haで、実生は40ha)でニガキ科のSimarouba amaraを対象として分子マーカーを用いて親子判定を行い、数百メートルを超える長距離散布(LDD)が実現していることを示した論文。

分子マーカーを用いている先行研究では、花粉散布距離のみを測定しているものが多く、動物が腸内通過して散布される植物を対象として、花粉散布・種子散布距離を測定している研究は珍しい。分子マーカーを用いた手法や解析ソフトについても簡単にまとめてある。実生のサンプリングは782個体に及んでいる。

実生の親個体は同種の再近接個体として計算されていることが多かったが、この研究ではそういった傾向が認められず(4.3%)、散布距離を過小評価している可能性が高い。50mを超えている実生がかなり多いので、こういった傾向が他の動物散布型植物にも認められるのなら面白い。

散布カーネルの推定 [書籍]

Nathan (2007) Total dispersal kernels and evaluation of diversity and similarity in complex dispersal systems. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 11, pp.252-276.

Dispersal kernelを推定している研究の現状についてまとめた後、Total Dispersal Kernelsなる概念を提唱している。さらにその枠組み内で、TDKをタイプ分けしている。TDK以外にも略号が多いので、その辺をきちんと把握してから読まないと、混乱してしまう。この人の文章、内容的には難しいことが書かれているのだけど、よく整理されているので、なんとなく丸め込まれてしまうような感じ。

シードシャドウの重要な要素:果実食動物、種子、遺伝子 [書籍]

Jordano (2007) Frugivores, seeds and genes: analysing the key elements of seed shadows. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 10, pp. 229-251.

前半部分はseed shadowの推定を行っている先行研究についてミニレビューを行っており、後半は自分たちのチームが行っているPrunus mahalebの種子散布について、Molecular EcologyやPNASなどに掲載された論文にデータを追加した形で解析を行った結果をまとめている。

前半部分のレビューは結実木側に着目してたアプローチ(seed shadowがメイン)と散布された種子側に着目したアプローチ(seed rainがメイン)について、それぞれの方法の長所と短所について簡単にまとめて、それらの問題点を克服するために遺伝マーカーを用いることの有効性について書いている。

確かにLDDを実際に追跡することは遺伝マーカーを用いることなしには不可能だろう。LDDが生じているパターンを示すにはrandom walkよりもLevy walkの方が当てはまりがよいらしい。遺伝マーカーを用いた研究を行っていない身としては、それらを用いる際の問題点がまとめてあるのは役に立つ。

多様な動物によって作られる散布カーネルを推定する [書籍]

Dennis & Westcott (2007) Estimating dispersal kernels produced by a diverse community of vertebrates. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 9, pp. 201-228.

オーストラリアチームが行ってきた群集レベルでのseed shadowの推定を行っている研究のうち、ホルトノキ科Elaeocarpus grandisに関連した研究。一番のメインとなっているイチジクを利用する動物相とそれらが作り出すseed shadowを推定した研究は別の論文としてまとめているのだろう。

章の前半はOecologiaに論文として公表されている内容で、多種多様な動物と植物を機能群として扱うことの方法論的な話。後半がオリジナルのデータが含まれている部分で、実際にElaeocarpus grandisを利用する果実食動物によるseed shadowを推定している。ちょっと意外なのは林冠で食べられる果実の割合がかなり高く、林床に落ちる果実の割合が1割程度なところ。そんなに効率よく林冠で食べられているのだろうか?24個体を対象とした148時間の観察で16種665個体の動物が訪れているので、私が調査していたAglaia やCanariumと比べると訪問頻度はかなり高いけど、そんなに効率よく食べられているのだろうか?

種子散布系における生態代理機能:マイコドリの場合 [書籍]

Loiselle et al. (2007) Ecological redundancy in seed dispersal systems: a comparison between manakins (Aves: Pipridae) in two tropical forests. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 8, pp. 178-195.

同所的に生息するマイコドリ類を捕獲して、糞内容分析を行った結果と捕獲場所による活動パターンの違いから、種子散布者としての特性が種間で大きく異なることをコスタリカ(1985-1993)とエクアドル(2001-2004)の2箇所の調査地で複数年行ったカスミ網の調査から明らかにしている研究。

コスタリカでの研究のデータを利用した論文は既にいくつも発表されているけど、新しい調査地であるエクアドルでの種子散布に関連した研究はこれかららしい。マイコドリの種数が多いエクアドルの方がマイコドリ種間の生態的な役割は似通っているので、絶滅する影響は少ないようには見えるが、これは基本的に糞内容分析の結果で、小型の種子が腸内を通過した場合の種子散布についてのみを考慮しているため、そのように見えているだけだろう。

大型の種子は吐き戻すし、そういったところで利用資源が異なっている可能性は高い。けど、調査努力量が半端ではないにもかかわらず、rarefaction curveは全く収束する気配が見えていない。どのくらい調査すればよいわけ?

砂漠生態系における種子散布 [書籍]

Bronstein et al. (2007) Fleshy-fruited plants and frugivores in desert ecosystems. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 7, pp. 148-177.

砂漠では動物に種子散布を依存するような植物の割合は非常に少なく、それらの果実を利用する動物相も限られているので、システムが比較的単純で、サボテンなどを対象として面白い結果が得られている。

この章のメインはイスラエルのOrhradenus baccatusのシステムとメキシコのCaspsicum annuumのシステムを対象として行われている研究。砂漠のシステムでは、果肉中の栄養だけではなく、果肉に含まれている水分そのものが重要らしいが、そういった形で動物が摂取する水分がどのくらいの割合になるのか安定同位体を用いるとわかったりするのだろうか?

砂漠では止まり木となる低木の個体数も限られているし、鳥が果実を利用して移動した先までを双眼鏡で観察して、即レーザー距離計で測定したりすることができるのは大きなメリットト。でも実際の調査はとても暑いんだろうな。Orhradenus baccatusは種子サイズが小さいので、ヒヨドリなどの小型の鳥類でも比較的長い腸内滞留時間を示しているのだろうか?

砂漠ではnursery planへの指向性散布が好まれそうだけど、砂漠システムで見られた状況が他の生態系システムにも当てはまるかというとちょっと微妙な感じがする。高山生態系とかだと一部当てはまるかも?

爬虫類による果実食と種子散布の重要性 [書籍]

Valido & Olesen (2007) The importance of lizards as frugivores and seed dispersers. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 6, pp. 124-147.

動物による種子散布の研究は鳥類・哺乳類・アリ類を対象としたものが圧倒的に多く、爬虫類や魚類による種子散布はかなり色物扱いされてきた。果肉を利用するカメやトカゲはかなり多いけど、主な種子散布者だったのは昔の話として語られている場合が多い。しかし、先行研究などでは果実が食性情報として記載されていても、「植物」としてまとめられている場合がほとんどなので、正確な情報が文献から得られるものはそれほど多くない。

この章の著者たちは丁寧に文献情報を調べてあり、必要な場合には直接論文の著者に確認を取っている徹底振り。やっぱそのくらいやらないとね。今後、爬虫類の種子散布に関連した情報を探すには有用。Santamaria et al. (2007) のように量的な情報にまで触れている研究は多くはないが、今後、見逃されてきた相互作用系として増えてくるかもしれない。日本国内でも島嶼部などで果実食動物が少ないような環境ではこういった爬虫類による種子散布が意外と重要な場合もあるかもしれないが、誰か研究していないだろうか?

果実特性と種子散布者としての大型哺乳類の重要性 [書籍]

Donatti et al. (2007) Living in the land of ghosts: Fruit traits and the importance of large mammals as seed dispersers in the Pantanal, Brazil. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 5, pp. 104-123.

ブラジルのPantanalとよばれる湿地帯に見られる巨大な果実とその種子散布者についての考察。まずこの地域における果実と果実食動物の相互作用を記載し、さらに果実形質を他の地域(Atlantic rainforest、Ivory Coast、Okavango)で比較している。

林冠での果実利用の直接観察と林床での落果の果実利用を自動撮影装置による観察の両方を行っている点では貴重。さらに湿地林ということもあり、魚類の糞内容分析も行っている。この地域はアクセスが難しいせいか、大型哺乳類が比較的よく保存されている地域らしい。

ここでもmega-faunaシンドロームの定義としては体重が44kg以上の哺乳類というのが使われている。哺乳類に着目しているので、果実サイズ、色、匂いを定義している。種子散布者を喪失してもmega-faunaに依存していた植物が生き残っている理由として、そういった植物が長寿命で、短距離散布のみでも個体群が維持される可能性を指摘している。

周食型果実の種子発芽における腸内通過の役割 [書籍]

Traveset et al. (2007) A review of the role of endozoochory in seed germination. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 4, pp. 78-103.

果肉に含まれている成分が種子発芽を抑制するdeinhibitionの効果、動物の腸内を通過することで、種子の表皮が薄くなるscarificationの効果、種子散布時に同時に排泄される糞の効果、集中的に散布されることの効果についての総説。

基本的には実験的なアプローチが必要不可欠な研究だけど、いかに現実に近い状態で発芽実験を行うかがキーになりそう。scarificationの効果については、複数種の種子散布動物の腸内通過を比較し、実際に表皮が薄くなっているのを測定している研究も行われている。Canariumなんかも果実食動物に利用されることで、こういった効果があるとにらんでいるのだけど、実際に実験系に持ち込むにはちょっと大変そう。カオヤイでサンバーの腸内通過の影響を調べるとかなら出来るかもしれないが、飼育個体がいないことには難しい研究は大変そう。

果実色シグナルの進化 [書籍]

Schaefer & Schaefer (2007) The evolution of visual fruit signals: Concepts and constraints. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 3, pp. 59-77.

果実の色の進化をシグナル理論とからめて研究してるSchaefer夫妻の総説。どちらかというと行動生態学からのアプローチを取っている人たちなので、実験的な方法を用いて鳥による果実選択を調べている文献が網羅されている点は便利。今まで果実と葉のコントラストが目立つことに効いているのではないかというストーリーはあったけど、実際にそういったコントラストを測定している研究も出ているらしい。

Prunus spinosusの果実がかなりUV反射をしているらしく、Ardisia crenataの果実と反射スペクトルを比較した図は全く異なるパターンを示している。こんなパターンは昨年の卒業研究をやっていた学生のデータでは見た覚えがない。こういったはっきりとした傾向を示す果実が身近にあるのであれば、いろいろと実験計画などを考えてみる価値はある。

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