SSブログ

サイチョウの保全:現状 [書籍]

Kinnaird & O'Brien (2007) The ecology and conservation of Asian hornbills: Farmers of the forest. Chapter 8, Threats to persistence: a reality check. pp. 184-234.

現在、アジアのサイチョウが生息している熱帯林の現状についてまとめた章。IUCNのレッドリストに掲載されているサイチョウをまとめてある。基本的に分布域が狭い島嶼部に生息するサイチョウ類のランクが高い。森林の分断化、劣化、消失の原因として森林伐採、プランテーション、農業、火事、薪収集と家畜についてまとめている。

森林伐採がそこに生息する動物に与える影響についてはLife after loggingでかなり網羅されているけど、ボルネオ以外の情報も網羅されている点は便利。この本でよく引用されているThe cutting edge: conserving wildlife in lodge tropical forestは読む必要がありそう。この辺はWCSにいるだけあってよくまとめている。

最後に著者たちが提案するカテゴリーを紹介している。26種は現状維持で、4種のランクを上げて、ナナミゾサイチョウのみランクを下げても良いのではないかとしている。確かにナナミゾサイチョウについては比較的分布域が広く、HKKの調査で、個体数も多いという結果になっている。この辺の個体数推定の情報は2005年のワークショップで発表された内容を利用しているが、ポイントカウントのデータはどのくらいの精度なのかちょっと疑問。

サイチョウによる種子散布 [書籍]

Kinnaird & O'Brien (2007) The ecology and conservation of Asian hornbills: Farmers of the forest. Chapter 7, Ecological services: farmers of the forest. pp. 155-183.

この本の副題にもなっている種子散布に関連した章。前半は空洞化、半空洞化した森林の概念について簡単にまとめている。この章の後半でこれに関連した話が展開される。間には動物の種子散布に関連した項目として、processing rate、moving seeds、seed germinationの3つについてまとめている。

飼育個体を利用した発芽実験についての未発表データが修士論文として掲載されているらしいが、基本的には種子食害を行わないという点は先行研究と同じ。Leighton (1982)にこれほど詳細な腸内滞留時間のデータが掲載されていただろうか?同じく飼育個体を利用した研究から大型のサイチョウ類の腸内滞留時間は78.6分となっているので、私が野外で確認したAglaiaやCanariumの吐き戻し時間はかなりいいせんかも。

スラウエシで行っていたラジオテレメトリーデータを再解析して、種子散布距離を推定している点は面白い。seed germinationのところではサイチョウの巣穴周辺での種子散布についての研究をまとめてあり、こちらもアフリカで未発表データがあるらしいので、どうにかして手に入れたい。ただ、かなり詳しく紹介されているので、大体の傾向はつかめるけど。Ecologyに掲載されたMcConkeyのオオコウモリの論文を引用しておくべきだと思う。

サイチョウの社会 [書籍]

Kinnaird & O'Brien (2007) The ecology and conservation of Asian hornbills: Farmers of the forest. Chapter 6, Social systems: a tribute to monogamy. pp. 128-154.

サイチョウはその繁殖形態からしても一夫一妻型だと思われているけど、今のところ遺伝子データを用いて確認されているのはアフリカのサイチョウで1種のみ。前半はサイチョウがどうして巣の入口を塗り固めるのかについて、対捕食者仮説、微環境仮説、種間・種内競争仮説、mate fidelity(貞節仮説?)を順番に紹介している。

樹洞で営巣する鳥類の繁殖成功をサイチョウ類とその他の3目で比較しているが、80%を超える種がほとんどで、繁殖成功の高さはサイチョウに限らない。微環境も証拠が弱い、競争は営巣場所制約が見られるのは一部の調査地に限られるなどから、著者たちはmate fidelity仮説を押していて、雌の戦略として進化したのではないかと考えている。実際にアジアのサイチョウを対象として親子判定データを集めるのは難しそうではあるけど、あれだけ一緒にいる時間が長く見えるので、一夫一妻なのかも知れんな。

章の後半は2005年のシンポジウムでO'Brienさんが話した内容で、サイチョウ類でテリトリーを持つグループとそうでないグループの比較。最後にヘルパーがいる種での繁殖形態の比較をビルマサイチョウとムジサイチョウで行っているけど、ピライさんがデータの詳細を明らかにしていないので、比較としてはイマイチ。

サイチョウの繁殖 [書籍]

Kinnaird & O'Brien (2007) The ecology and conservation of Asian hornbills: Farmers of the forest. Chapter 5, Reproduction: an extraordinary investment. pp. 105-127.

サイチョウといえば特徴的なのはその繁殖様式。鳥の中でも繁殖にかけている期間(4-5ヶ月)は長い部類に含まれる。先行研究の繁殖時期を一覧表にまとめてあるのは便利。このデータと降水パターンのデータと結実フェノロジーのデータを組み合わせることができると面白いと思うのだけどなかなかうまく行っていないのが現実。

繁殖フェノロジーのデータに比べて結実フェノロジーのデータの分散が大きすぎるというか調査努力量が足りていないというのが現実だろう。サイチョウが営巣木として利用している樹木サイズを平均値で示しているけど、ここは最小サイズで示した方が後半の保全につながなると思う。サイチョウの研究者の樹木の同定能力がどのくらいかによって大きく左右されるデータなので、どんな樹木が良く使われているかに関しては微妙。

オナガサイチョウが独特な樹洞のみを利用するというのもスマトラやボルネオでも同様らしい。野外調査では雛の成長曲線を描くことのできるようなデータをとることはまず無理なので、動物園で飼育されている個体の繁殖記録に基づいたデータがまとめられている点はよい。

サイチョウの食性 [書籍]

Kinnaird & O'Brien (2007) The ecology and conservation of Asian hornbills: Farmers of the forest. Chapter 4, Feeding ecology: how to survive on fruits. pp. 70-104.

サイチョウの食性についてまとめてある章。とりあえず表4.1に掲載されている論文はWCSの未発表データ以外は手に入れている。利用している果実の情報として497種135属46科が記録されているけど、種数はもっと増える。重要な科がクスノキ科、クワ科、センダン科、ニクズク科、バンレイシ科というのはまあそうだろう。

Bushy-crested hornbillで記録されている果実の種数が多いらしいが、確かにタイ南部でもそうかもしれない。全部の種のリストが見たいところだけど、これは掲載されていないので、この人たちの手持ちの未発表情報を見ることができないのは残念。どこかで別の論文として掲載されてくれると良いのだけど。

後半はスラウエシとスマトラで彼らが行ってきた結実フェノロジーとサイチョウの個体数推定のデータがまとめられているのだけど、イチジクの結実フェノロジーの図はちょっと疑問を感じる。Ficus crassirameaのある個体が結実していた期間が22週間に及ぶのだけど、本当に同じ個体がそんなに長い間結実することがあるのだろうか?同種複数個体が混じっていた可能性はないのだろうか?

サイチョウのハビタット [書籍]

Kinnaird & O'Brien (2007) The ecology and conservation of Asian hornbills: Farmers of the forest. Chapter 3, The hornbill realm: forests, fruits, and fires. pp. 51-69.

前半はアジアのサイチョウが分布する森林タイプについて概説すると同時に東南アジア各国の有名な都市とサイチョウの調査地の降水量と雨季の開始時期についてまとめている。後半は結実フェノロジーの季節性について先行研究をまとめている。

東南アジア熱帯の開花・結実フェノロジーについては昨年、いくつか重要な論文が掲載されているので、ちょっと物足りない気がする。スマトラのフェノロジーは70か月分のデータが掲載されているが、まだ継続されているならすごいデータになりそう。カオヤイは重要な研究サイトだけど、ピライさんたちはフェノロジーデータを論文化していないので、一年間分のデータしか掲載されていないテナガザルチームの論文をわざわざ引用して言及しているのはちょっと嫌味な感じ。

Circular Vector Analysisを応用して、2005年くらいまでに情報があった文献はほとんど網羅されているが、Hamann (2004) のネグロス島の論文を引用していないのはなあ。火災に関連した部分は彼女たちがスマトラで精力的に調査を行っているのだけど、あまり詳細は掲載されていない。

サイチョウの進化 [書籍]

Kinnaird & O'Brien (2007) The ecology and conservation of Asian hornbills: Farmers of the forest. Chapter 2, The rise of hornbills: evolution, taxonomy, and morphology. pp. 19-50.

現在までのわかっている情報に基づいて、サイチョウの進化について考察している。著者たちもサイチョウは分類群としては比較的古いと考えているらしい。特にアジアのサイチョウの種分化の過程には気候変動にともなう森林の分断化が重要な役割を果たしたのではないかとする考え方は重要。

Fig. 2.4.に掲載されている東南アジアに分布するサイチョウの種数のグラフはわかりやすくてよい。基本的に8種以上のサイチョウが同所的に生息しているのはボルネオとスマトラと半島マレーシアのみ。まあ、これは潜在的な種数であって、実際に一箇所で8種以上のサイチョウを見ることができる場所はかなり少ないだろう。

カオヤイは4種いるから、この辺も微妙にデータが間違っている点は注意。Rhyticerosの侵入過程を考察した図は面白いのだけど、ニューギニアからオーストラリアへと分布を広げなかったのはどうしてだろうか?現在、スラウエシにいないのもよくわからない。過去の分類の変遷がまとめてあるのは知らなかった情報なのでためになった。リンネはオオサイチョウとツノサイチョウを記載しているのですね。

サイチョウとは? [書籍]

Kinnaird & O'Brien (2007) The ecology and conservation of Asian hornbills: Farmers of the forest. Chapter 1, Why hornbills? pp. 1-18.

この本で取り扱うアジアに生息するサイチョウ類の31種の分布域について、属ごとに簡単に記載した部分。分類体系は基本的にKemp (2001)のモノグラフに沿っている。

情報が属ごとにまとまっていてわかりやすいのだけど、分布域に関してはBucerosのところは最新の情報が反映されておらず、タイ南部のツノサイチョウの分布が抜けている。そのためツノサイチョウとオオサイチョウが同所的に生息する環境がスマトラと半島マレーシアの一部になっているのだけど、その辺はもう少し分布域が広い点は注意。用いられている絵はWCSがポスターで配布しているものと同じか?

種子シャドウと実生を結びつける:ドングリの場合 [書籍]

Steele et al. (2007) Linking seed and seedling shadows: A case study in the oaks (Quercus). In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 14, pp. 322-339.

こちらは長くドングリの種子散布がらみの研究を行っているチームの総説。げっ歯類の貯食行動の意思決定に絡む研究はAnimal Behaviour等の動物行動系の雑誌に掲載されていることが多く、あまり目を通していないので、こういった形でまとめてあるのは便利。このチームでは15年以上も動物側からのアプローチでドングリの種子散布を研究しており、ほとんどが動物学系の雑誌に掲載されている。

この章では1.6haの調査地内に同所的に分布するQuercus rubraとQ. albaを対象として、マイクロサテライトDNAを用いた親子判定を行った結果を紹介している。ほとんど未発表データ扱いで、今後、論文化されていくらしい。実生256個体、親105個体を対象としているが、親子判定できている割合はかなり少なく(83マッチ)、調査地外に親木がある可能性が高そう。げっ歯類による貯食行動から推定される散布距離よりも随分長い散布距離が実現しており、これらの主なドングリ利用動物以外による種子散布の可能性が高そう。

でも、15年間も研究しているとはいえ、げっ歯類は本当に長距離散布をしていないわけ?という気もするのは私だけではないと思うのだけど。こういった動物側から種子散布を研究していたグループが遺伝子マーカーを用いて、実生の親子判定などを行う研究はこれから増えてきそう。

オオハシの種子散布 [書籍]

Holbrook & Loiselle (2007) Using toucan-generated dispersal models to estimate seed dispersal in Amazonian Ecuador. In Dennis et al. (eds) Seed dispersal: Theory and its applications in a changing world. Chapter 13, pp. 300-321.

ニクズク科Virola属の種子散布の研究はHoweの一連の研究に加えて、Sabrina Russoなどの研究も行われており、熱帯の樹木を対象とした種子散布系ではもっともよく研究されているグループ。オオハシ類が長距離散布に貢献しているのではないかという指摘は古くから行われていたが、オオハシ類によるseed shadowを推定したはじめての研究。

この研究では調査対象としたV. lflexuosaの果実を利用する動物相(13個体、400時間)、2種のオオハシ類の腸内滞留時間の推定、ラジオテレメトリー調査によるる単位時間当たりに移動する距離の推定を行い、これらの情報を組み合わせて、seed shadowの推定を行っている。seed shadowの推定は単純な解析方法を用いており、活動時間帯による際などは考慮していない。オオハシ類は果実食についての論文もごく最近で、サイチョウほど種子散布関連の研究は行われていない。

サイチョウ類よりも体サイズが小さいせいか、一度の訪問で利用する果実の量が平均1.5ってことは、一度に1-3個しか利用しないのか。行動圏は数十haでサイチョウよりもかなり狭いけど、種子はかなり分散されるのではないだろうか?彼女の個人ホームページにはEcologyに投稿中の論文のほかに遺伝子マーカーを用いた個体群構造の解析を行っている論文とオオハシの行動圏を調べた論文が準備中になっているので、まだまだ増えそう。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。