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RFIDを利用したノハラナメクジの個体追跡 [原著]

Forbes et al. (2020) Locomotor behaviour promotes stability of the patchy distribution of slugs in arable fields: Tracking the movement of individual Deroceras reticulatum. Pest Management Science 76(9):2944-2952.
https://doi.org/10.1002/ps.5895

ヨーロッパで農業害虫であるノハラナメクジを対象として、radio frequency identification (RFID) tagsを利用して個体追跡を行っている研究。最初に実験室条件下でタグをつけた個体の生存や採食、産卵、速度、移動距離などを調べて、タグの影響がないことを確認している。次にタグをつけた個体を農地に放逐し、春と秋に追跡調査を行っている。

大型のナメクジでの先行研究はあるが小型のナメクジではタグの影響が大きくなる可能性があるので、タグ埋め込みと二酸化炭素麻酔と接着材、タグ埋め込みと二酸化炭素麻酔、二酸化炭素麻酔と切り込み、二酸化炭素麻酔、コントロールの5つの処理を20個体ずつのノハラナメクジに行っている。その後28日間、元のケージに戻して観察を続けている。野外調査用には別の個体を捕獲して、タグ埋め込みと二酸化炭素麻酔処理を施して、14日間の回復期間ののち、放逐して追跡調査を行っている。

肝心の移動距離は実験室条件下では1時間平均50cmほどで、タグのアリなしでは有意差がない結果になっている。春に野外に放逐した個体の追跡結果では、5週間の追跡期間で、放逐場所からの移動距離は平均79cmで、非常に狭い範囲しか動いていない。ただし、1週間間隔ではもっと長く165cmになっている。採食時に長い距離を移動することもあるが、特定の場所に戻るようなことをするらしい。秋の実験ではもう少し移動距離が長く、平均102cmで、最大408cmに到達した個体もいる。

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森林と庭における移動式アンテナを使ったPITタグ付きナメクジの行動追跡 [原著]

Nyqvist et al. (2020) Tracking the movement of PIT-tagged terrestrial slugs (Arion vulgaris) in forest and garden habitats using mobile antennas. Journal of Molluscan Studies 86(1):79-82.
https://academic.oup.com/mollus/article-abstract/86/1/79/5756167

数年前にサンショウウオをPITタグで追跡した研究の話を聞いた時に大型のナメクジなら、同じような手法で個体追跡できるんじゃなかろうかと思っていたけど、まさにそんな研究がArion vulgarisを対象として行われていた。

不勉強で知らなかったのだけど、ナメクジにPITタグをつけた研究はこれが最初ではなく、2001年にすでにPITタグをつけて行動圏を調べた研究がActa Oecologicaに掲載されている。先行研究で使われたのと同じ種を対象として(先行研究は同定ミスで種名が異なって表記)、スウェーデンのカールスタードにおいて、庭と森林の二つの環境におけるArion vulgarisの行動追跡を行っている。

2018年9月17日と18日に64個体(庭54個体、森10個体)のArion vulgarisを捕獲し、麻酔をかけて12mmのPITタグを埋め込んでいる。このうち3個体はタグをつけている途中で死亡しているので、61個体(庭51個体、森10個体)を実験に利用している。9月19日に捕獲した環境で放逐し、追跡調査を行っている。ただし、このうち庭の3個体と森の1個体は放逐場所から移動しなかったので解析からはのぞいている。放逐個体は平均6.9gなので、ヤマナメクジなら楽勝サイズ。

2018年9月21日から10月11日の間に5回、日中と夜間の調査を行っている。PITタグと専用アンテナを使い、ナメクジを放逐した場所からだんだんと探索範囲を広げていくやり方で庭では800m2、森では1200mを探索している。一日の移動距離は0から3.5mで、平均0.7m。行動圏の中央値は庭で2.5m2、森林で20m2とかなりばらつく。森林では最大111m2。ただ、先行研究では最速2時間で7m移動したことも知られている種らしい。

うちの職場からはアクセスできない雑誌なので、リサゲ経由で著者に依頼して、Proofを送ってもらった。しばらくナメクジ論文が続きます。
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ガーナの森林性サイチョウは野放しの狩猟と生息地劣化により減少している [原著]

Holbrech et al. (2018) Uncontrolled hunting and habitat degradation decimate and extirpate forest hornbills in Ghana, West Africa. Biological Conservation 223:104-111.

先日、Corlettさんのセミナーに参加した時に読んでいないことに気が付いた論文。西アフリカのガーナに生息するサイチョウ類9種(大型4種の主な食性は果実食、中型3種は雑食、小型2種は昆虫食)を対象として、1990年から2014年にかけて人間活動がサイチョウ類の個体数の長期変動に与えた影響を評価している。具体的には、過去と現在の森林性サイチョウ類の個体数の比較、個体群動態の傾向、推奨する保全措置などをあげている

調査地はガーナ南西部にある森林の利用履歴の異なる保護区。1990年から2014年の間に独立に行われた7回の調査データ(4か所の野生生物保護区と22か所の森林保護区)を組み合わせて解析している。調査時期によって鳥類群集の調査手法がトランセクト法、ポイントカウント法、プレイバック法などさまざまな手法が用いられているが(著者らのメインデータは2009年のプレイバック法)、ターゲットを比較的、確認しやすいサイチョウ類に限定していることで、比較可能にしているのだろう。

2009年のプレイバック法では、9種中7種しか記録できておらず、各調査地で2-6種が記録されている。大型の森林性サイチョウ類は一部の調査地でしか記録されておらず、そこでは他の調査地よりもプレイバックへの反応も多い。長期的には、ほとんどの種で減少傾向が見られ、元の4割から9割程度に減少している。減少傾向が見られなかった2種(モモグロサイチョウとシラガサイチョウ)のうち、モモグロサイチョウはもともと低密度。結果として、現在もふつうに見られるのはシロクロコサイチョウのみ。先行研究でも大型種の急激な減少が指摘されており同じ傾向。

大型種の減少は森林伐採が低度やない場所で生じており、森林伐採にさらされていても狩猟から守られている場所では見られないことから、狩猟が原因と考えられる。狩猟が広がっている場所では、1990年代の初めには大型種が絶滅している。まあ、サイチョウ類はかなり食性幅も広いし、移動能力も高い。さらに寿命も長いので、狩猟されなければ、ある程度、森林伐採があってもやっては行けることを反映しているのではなかろうか。
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タンザニアのギンガオサイチョウの繁殖期の食性 [原著]

Cordeiro et al. (2016) Diet of the Silvery-cheeked Hornbill Bycanites brevis during the breeding season in the East Usambara Mountains, Tanzania. Orstrich 87:67-72.

タンザニアの山地林で鳥類による種子散布を研究していたCordeiroさんがギンガオサイチョウの繁殖期に14か所の営巣木を対象として食性を調べた研究。面白いのは、1940年代に論文として出されている内容と比較している点。アジアのサイチョウ類と比べるとアフリカの森林性サイチョウ類の繁殖期の食性情報は非常に少なく、ウガンダのKibale、とカメルーンのDjaで行われた研究くらいしかない。

調査地はタンザニアのAmani自然保護区で標高850-1000mくらいの山地林。2001年に14か所のギンガオサイチョウの営巣木の下に1x1mの種子トラップを高さ1mに設置して、巣から落とされるものを回収している。0.5cmより大きな種子は計数しているが、イチジクは果肉片を計数しているので、あまり正確ではない。

14か所の営巣木は8樹種14個体(Maranthes goetzeniana、Allanblackia stuhlmannii、Celtis midbraedii、Drypetes gerrardii、Anisophylle obtuisifolia、Parinari excelsa、Anthocleista grandiflora、Newtonia buchananii)。ウガンダ調査したことで、Parinari excelsaとかはイメージできるようになった。14か所で計5182個の回収物を得て、大部分は種子・果実で4861個。残りは脊椎動物が15個、無脊椎動物306個という構成。イチジク3種を含む果実・種子17種の大部分は、Maesopsis eminiiで93%を占めている。なんとここにもFicus altissimaがあるらしい。

1930年代に同じ地域で行われた研究でもMaesopsis eminiiは利用されているが、ここまで多くはなかった様子。75年前と比べると10-12週も繁殖時期が早くなっている理由として、Maesopsis eminiiの植林が増え、その大量の果実を利用することができるようになった可能性を指摘している。
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インドネシアの北マルク州におけるタイハクオウムの繁殖期とパプアシワコブサイチョウとの巣穴をめぐる競合関係 [原著]

Rosyadi et al. (2018) Breeding season of the endangered white (Umbrella) cockatoo, and possible competition for nest holes with Blyth’s (Papuan) hornbill in North Maluku, Indonesia. Kukila 21:35-42

タイハクオウムの繁殖時に営巣に使う樹洞をめぐるパプアシワコブサイチョウとの競合関係を観察した研究。タイハクオウムはペット需要が高く、かつては大量に捕獲されていたが、野外の繁殖生態の詳細はほとんど知られていない。繁殖に樹洞を利用するため、他の鳥類と競合関係にあることが予想される。本研究では、特に同じ地域に生息する唯一のサイチョウ類であるパプアシワコブサイチョウとの競合関係について、5つの営巣木での観察から考察している。

2014年2月から11月にインドネシアの北マルク州で観察を行っている。前半はタイハクオウムの営巣木を観察して、そこにパプアシワコブサイチョウがやってきたときの様子を詳細に記録している。3つのうち1つでは、タイハクオウムが繁殖をやめている(ただし、パプアシワコブサイチョウの訪問が理由かは不明)。後半は2014年1月または過去にタイハクオウムが営巣した木で、パプワシワコブサイチョウが営巣した木を観察している。1か所では、タイハクオウムが樹洞の様子を見に来て、もう1か所では、ねぐらとしてパプワシワコブサイチョウが営巣中の木を使っていた。観察した5か所の営巣木すべてで両種が確認されている。

大型のオウムとサイチョウ類の分布域が重複している場所はフィリピンを除くとインドネシアとパプアニューギニアの一部に限定されているが、それらの場所では樹洞をめぐる競合はかなり頻繁に生じているのだろう。本研究では同じ営巣木でタイハクオウムが年の前半、パプアシワコブサイチョウが後半に繁殖することが起きるらしい。ただ、体サイズはパプアシワコブサイチョウ>タイハクオウムなので、基本、タイハクオウム側がパプアシワコブサイチョウに邪魔されないような時期に繁殖しているのかもしれない。
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