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脊椎動物による種子捕食が減少しても、その分、菌類や昆虫類が種子捕食する [原著]

Williams et al. (2021) Fungi and insects compensate for lost vertebrate seed predation in an experimentally defaunated tropical forest. Nature Communications volume 12, Article number: 1650 (2021)
https://doi.org/10.1038/s41467-021-21978-8

狩猟対象である大型哺乳類が減少した影響を他の生物がカバーするようなことが起きているのかを実験的に調べた研究。森林の空洞化の説明で、大型動物が減少し、それらの動物に依存していた植物では、種子散布過程が崩壊すると話してしまうけど、散布されなかった種子には、同種密度や距離に依存した死亡率があることが前提。ただ、これらの要因で種子の死亡率が上昇しても種子捕食を行う大型動物が減少することで、結果的に種子の死亡率が相殺されるかもしれないので、種子散布と種子捕食の両方を調べることが重要になる。

この研究では、ボルネオ島サバ州のダナムバレーで、2019年8月の一斉開花を利用して、5樹種の散布後の種子食害の影響を対象にしている。すでに小型哺乳類や昆虫類が大型動物による種子食害の影響を相殺する事例は新熱帯やアフリカから報告されているけど、この研究では、菌類にも注目している点が新しい。コントロール、大型哺乳類(排除実験)、大型哺乳類とネズミ類(排除実験)、大型哺乳類とネズミ類と昆虫類(殺虫剤)、大型哺乳類とネズミ類と菌類(殺菌剤)、すべて排除の6通りの実験(10反復)を行うことで、それぞれの種子食害の影響を調べている。排除実験区は9 × 11 mの面積を1.8mのフェンスで囲った形で、上が開いているので、リスは入れそう。ただし、大型動物の定義が1kgより重いになっている点は注意が必要。調査対象樹種は、ムクロジ科リュウガン(これだけ市場で購入)、フタバガキ科Dryobalanops lanceolata、Parashorea malaanonan、Shorea leprosula、Shorea macrophyllaの計5樹種。種子重は最も軽いShorea leprosulkaが0.39gで最も重いShorea macrophyllaが11.75g。

大型哺乳類による種子捕食の効果はかなり大きいが、大型哺乳類を排除してもトータルの死亡率はあまり変わらない結果。大型哺乳類・ネズミ類を排除しても同様で、その分、昆虫や菌類による死亡の割合が高まる。ただ、Parashorea malaanonanは大型哺乳類があまり捕食せず、排除しても食害率は低下しない。殺菌剤は5種をプールすると効果がないけど、Shorea leprosulaとDimocarpus longanは個別に解析すると影響がでる。重要なのは、ネズミ類による捕食はそれほど重要ではなさそうという結果で、新熱帯やアフリカ熱帯とは異なる。ただ、それは今回の排除実験で大型哺乳類を排除している面積が非常に狭いためとも考えられるので、解釈には注意が必要。ゾウがいるところで排除実験やって、破壊されなかったのかと思うけど、種子のモニタリング期間が比較的短い(11週)からうまくいったのか。

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カタルーニャの市街地でトベラを食べる鳥種 [原著]

Bracho Estévanez, C. A. (2020) Trophic interactions between Japanese mock orange Pittosporum tobira and autochthonous frugivorous birds in a town in Catalonia. Revista Catalana d’Ornitologia 36:74-78.

トベラを食べる鳥の文献情報を調べていたらヒットした文献。スペインのカタルーニャの市街地に植栽されているトベラが侵入種になる可能性として、種子散布に関わる鳥を記録している。地中海沿岸では、すでに侵入種として認識されている植物。4月から5月に開花し、8月ごろに結実するが、翌年の3月や4月になっても果実が残っているようす。まあ、スペインでも好んで食べられるものではないらしい。スペインで新型コロナが広がり、自宅待機期間中の3月25日にオスのズグロムシクイが種子を食べるのを観察したことを契機に短期間の観察を行っている。具体的には、トベラを食べる鳥を記録するのとトベラとのつながりの強さを評価することを目的としている。

観察は2020年3月から4月にかけて朝7回(8:00-10:00)と午後2回(16:00-18:00)の計18時間の観察。観察期間中に5種37回の訪問を確認している。1時間に2回くらいは観察できる計算か。クロウタドリ(18回)、ズグロムシクイ(9回)、クロガシラムシクイ(6回)、ヨーロッパコマドリ(3回)、ホシムクドリ(1回)が訪問し、食べているのは1回に1個がほとんど。いずれも在来種の有効な種子散布者と考えられており、トベラに関してもおそらく種子食害はしていないだろう。

短期間の観察に基づいた情報だけど、スペインでも結構最後まで食べられないんだろう。
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気候変動が植物と動物の相互作用に及ぼす影響の形質ベース評価 [意見]

Schleuning et al. (2020) Trait-based assessments of climate-change impacts on interacting species. Trends in Ecology and Evolution 35:319-328. https://doi.org/10.1016/j.tree.2019.12.010

気候変動が生物多様性に及ぼす影響を評価するような先行研究ではほとんど無視されてきた植物と動物の相互作用に注目した意見論文。形質ベースの枠組みを導入することで、気候変動に対する種間相互作用の反応を予測することを狙っている。具体的には、空間的・時間的ミスマッチ、新規の相互作用と二次的な絶滅、植物の移動能力の改変の3つの経路を想定して、それに対応する機能形質についてまとめている。

気候変動に対する動物と植物の間の空間的・時間的ミスマッチは、例えば、相互作用が見られる動物と植物の温度耐性の違いとかで生じてくる。動物と植物相対的な数が変化したり、どちらかが絶滅したところへ、新しい種が分布を広げた結果として生じた相互作用によって軽減されたり、温度変化に素早く反応して、あまりミスマッチが生じなかったりということが考えられる。また気候変動によって新しく相互作用が結ばれる場合もあれば、必須のパートナーを失うことによる二次的絶滅につながる場合もある。例としては、送粉系を取り上げており、ある花に特殊化した送粉者が花の絶滅にともなって絶滅する場合や別の花種が移入することで、新たな関係を結ぶ事例などを想定している。最後は大型の種子散布者を喪失することで、散布カーネルが大きく変化して、長距離散布の可能性が減少することで、植物の移動能力が低下するようなことを想定している。

これら3つの経路にかかわる機能形質として、response trait、matching trait、dispesal traitをあげて、これらを用いて、気候変動の影響を予測する枠組みを提案している。
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イギリスの農地で不均等に分布するノハラナメクジの高密度パッチの安定性 [原著]

Forbes et al. (2020) Stability of patches of higher population density within the heterogenous distribution of the Gray Field Slug Deroceras reticulatum in arable fields in the UK. Insects 2021, 12, 9. https://dx.doi.org/10.3390/

ノハラナメクジ論文シリーズの最後。ただ、個体追跡しているデータではなく、ナメクジの高密度区を狙って農薬散布することで、農薬を使う量を減らすことができないかを検討する際の基礎情報を22か所の農地で複数種の作物を栽培した場所を3シーズンにわたって集めた研究。

各調査地では1haを10×10mに分割して、それぞれの区画内にトラップを設置している。1年目は14日間隔、2年目は毎月に減らしてサンプリングサイトを増やすといった形でサンプリングを行っている。得られた個体数データが場所、当年作物、前年作物、年などで説明できるのかをGLMで解析している。ノハラナメクジの集中度はTaylor’s Power Lawで解析、さらに分布パターンをHotspot Analysisで視覚化している。

基本的には、ノハラナメクジがある程度、活発に活動している時期であれば、、個体数密度が高い場所が存在して、そういった場所を狙って農薬散布するのがよさげという話らしい。これは個体ベースのデータは掲載されていなかったので、あんまり関係なかった。
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農地におけるノハラナメクジの移動パターン [原著]

Ellis et al. (2020) Movement patterns of the grey field slug (Deroceras reticulatum) in an arable field. Scientific Reports 10:17970 (2020). 10.1038/s41598-020-74643-3

ノハラナメクジを異なる密度で放逐した個体の追跡調査から、移動パターンについて検討している。ノハラナメクジはかなり高密度な集団を作るらしく、それをコントロールできれば、ナメクジ被害をうまく抑えることができるのではないかというアプローチ。

Forbes et al. (2020)で用いたRFIDタグを利用した個体追跡データに基づいた研究。タグの付け方は同じ方法を利用しており、14日間のリハビリ後、野外に放逐した個体を10時間で10回の位置情報を記録している。ここから得られたデータに対して、discrete-time random movement frameworkを応用して、移動パターンの解析に利用している。

放逐直後の移動パターンは高密度区ではほとんど動きがないのに対して、低密度区では移動する個体がほとんどで、他の結果からも密度依存的な移動パターンを示す。ただし、高密度区は11個体のグループが一つだけで、低密度区は1個体が17グループあるので、高密度区のデータは追加収集する必要はありそう。
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