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アジアゾウの潜在的な種子散布能力 [原著]

Harich et al. (2016) Seed dispersal potential of Asian elephants. Acta Oecologica 77:144-151.

タイ北部で飼育されているアジアゾウを対象として、果実の給餌実験を行い、種子の体内滞留時間や糞から回収した種子の発芽実験から、種子散布能力を評価している。対象樹種はアジアゾウが主な種子散布者として知られるビワモドキ科のDillenia indica。雌のアジアゾウ6頭(6-35歳)に対して、Dillenia indicaの熟した果実を与えている。その後は糞を継続的に回収して、種子の有無を確認している。12時間連続で種子が見つからなかったら実験を終了している。

糞から回収した種子を発芽実験に利用し、コントロール、体内滞留時間が30時間以内、30時間から48時間以内、48時間以上の3つの条件で発芽速度や発芽率を比較している。各個体から各時間で50種子とコントロール50種子、のべ1200種子の発芽実験を行っている。ただ、48時間以上の種子はあまり回収できなかったようで、実際は各処理で発芽実験に利用したのべ種子数はコントロール300、30時間以内300、48時間以内410、48時間以上190となっている。播種後6ヶ月間の観察を行っている。発芽実験のうち、半分はゾウ糞なし、残りはゾウ糞ありの処理としている。

平均体内滞留時間は35.3時間(20-72時間)。1200個の種子の最終発芽率は68%で、コントロールが61%、30時間以内が69%、48時間以内が67、48時間以上が80%で、遅くでてきた種子で発芽率が高い。さらに発芽速度も同じ傾向を示し、コントロールが最も遅く、48時間以上の種子が最も早い。アジアゾウの体内を通過した種子の発芽率はコントロールよりも高くて、早く発芽するけど、調査期間中に発芽しなかった種子の生死はきちんと確認するべきだな。

面白いのはゾウ糞がある方が発芽は遅く、発芽率も若干低い。播種したポットサイズが小さくて、野外条件とは異なるから遅くなったのかもしれないと書かれているけど、よくわからん。野外ではアジアゾウの糞があることで、種子食害者を誘引する可能性もあるし、適度な湿度に保たれる可能性もあるので、是非、野外実験で詳細を確認して欲しいところ。

果実食のオオトカゲを研究するための簡便な調査手法 [原著]

Bennett (2014) An inexpensive, non-intrusive, repeatable method for surveying frugivorous monitor lizards. Biawak 8:31-34.

フィリピン諸島の北部、ポリロ島に生息する果実食オオトカゲの一種グレイオオトカゲを継続的に研究する手法として、糞を利用することを提案している。糸巻きを固定して、320mの距離の間で糞を探し、糞の中身、サイズ、状態(新旧)を記録している。13か所で計30.4kmを踏襲し、新しい糞18個、古い糞35個を発見している。グレイオオトカゲと間違える可能性がある動物としては、ジャコウネコ類の糞があるが、カタツムリが含まれないらしい。

単に糞内容分析では、個体識別などには使えないが、現在なら、DNA分析なども加味することで、グレイオオトカゲの個体数推定などにも使えるのではないだろうか。写真に掲載されている1週間後の糞にはCanariumの種子、14ヶ月後の糞にはヤシの仲間の実生が見られるので、種子散布にしっかり貢献している。

果実食のオオトカゲの研究に自動撮影カメラを利用する [原著]

Bennett & Clements (2014) The use of passive infrared camera trapping systems in the study of frugivorous monitor lizards. Biawak 8:19-30.

センサー付きの自動撮影カメラは地上性哺乳類を中心に生態学的研究への活用が普及してきた。わたしもタイ南部で調査していた際、自動撮影カメラにミズオオトカゲが撮影されたこともあるので、爬虫類にも使えないわけではないけど、積極的に利用している例はコモドオオトカゲを対象とした先行研究(Ariefiandy et al. 2013 PLoS ONE 8: e58800)があるくらいで珍しい。

フィリピン諸島の北部、ポリロ島に生息する果実食オオトカゲの一種グレイオオトカゲが利用する結実木が対象。地上1.5-2.5mの高さを狙って、自動撮影カメラを設置している。グレイオオトカゲは昼行性らしく、夜間はセンサーを停止させることで無駄なフィルム消費を減らしている。調査期間が2002年から2004年で、まだデジタルカメラを利用したシステムが普及していない時期。36枚撮りフィルムを利用しているので、結構頻繁にカメラを訪問する必要がある。カメラは爪痕や斜面の向きなどを考慮して、オオトカゲが登る可能性が高い方向に設置している。撮影された写真から、グレイオオトカゲの活動時間、個体識別、個体サイズの推定を行っている。先行研究から5kgを超える個体はオスなので、大型個体はすべてオスとしている。

59本の樹木を対象とした2784カメラ日(249フィルム)のデータから、グレイオオトカゲが755回で最も多く、その他はVaranus marmoratusや哺乳類だが、撮影回数は非常に少ない。隠れ家とする木に設置したカメラからは午後3時に木に登り、翌朝7時45分に降りてくる様子が記録されている。活動するのは8時から17時にかけてで、完全な昼行性。樹種によって結実木での滞在時間が異なるが、平均滞在時間が最も長いCanarium sp.1でも平均29分、最大でも2時間にすぎない。体サイズと滞在時間には関係性はなく、いずれの個体も食べたらサッサと移動するらしい。

グレイオオトカゲの樹上での採食行動 [原著]

Bennett (2014) The arboreal foraging behavior of the frugivorous monitor lizard Varanus olivaceus on Polillo Island. Biawak, 8:15-18.

フィリピン諸島の北部、ポリロ島に生息する果実食オオトカゲの一種グレイオオトカゲが地上で落果を食べているのではなく、樹上で実っている果実を食べていることを自動撮影カメラ、ビデオ、直接観察などによって解明した研究。グレイオオトカゲが果実を利用することは、先行研究で述べられているが、主に落果を利用し、木から直接食べることはほとんどないとされていた。しかし、ポリロ島での10年間におよぶ観察は全く違う傾向を示していた。

捕獲した21頭のグレイオオトカゲに糸をつけて放逐し、個体追跡を行い、登った木を明らかにしている。自動撮影法にはトレイルマスターとカメラを組み合わせて、利用が知られている結実木に設置して、観察している。さらにPandanus、Canarium、Microcosの結実木において、調査ボランティアによる日中の直接観察(7時から18時)を行って、訪問する脊椎動物をすべて記録している。

糸つけ法から、グレイオオトカゲはCanarium、Pandanus、Pinanga、Microcos、Gnetum、Ficusの結実木に登っていた。Pandanus、Microcos、Canariumへの訪問頻度が高く、その他はそれほど多くはない。さらに84日間の観察から、グレイオオトカゲは結実木を計35回、訪問していた。いずれの場合も林床で落果を利用することなく結実木にとりつき、木を登っていたので、基本、樹上で果実を利用しているらしい。地上では果実ではなく、カタツムリやカニなどを食べている様子。カタツムリを加えている写真も掲載されている。

中国のジンチョウゲ科Aquilaria sinensisの花粉媒介と種子散布 [原著]

Chen et al. (in press) Pollination and seed dispersal of Aquilaria sinensis (Lour.) Gilg (Thymelaeaceae): An economic plant species with extremely small populations in China. Plant Diversity. dx.doi.org/10.1016/j.pld.2016.09.006

東南アジアの代表的な有用材である沈香の一種Aquilaria sinensisの保全を目的として、その花粉媒介と種子散布に関わる動物を調べた研究。Aquilaria sinensisは中国南部に生息する固有種で、生息環境の悪化により、個体数が激減している。同属では、これまでにも花粉媒介や種子散布に関する研究が行われており、特に種子散布者はインドのAquilaria malaccensisでツマグロスズメバチが報告されており(Current science 105:298-299)、中国でも同じようなシステムが見つかったという研究。

訪花昆虫を直接観察しているだけではなく、GC-MSを利用して、花の揮発性物質の化学分析も行っている。種子散布については、エライオソームを切り離した種子などを利用した実験も行っている。ついでにエライオソームの成分分析もしたら良いと思うのだけど、データは提示されていない。花に来るのはNoctuidae、Pyralidae、Geometridaeなどで、多いのがCondica illecta、Blasticorhinus sp.、Hydrillodes spp.など。果実には二つの種子が含まれ、熟すと裂開し、種子が4-7日間はぶら下がる。果実が裂開後、3日以内に33.7%の種子がスズメバチに持ち去られている。多いのがツマアカスズメバチで、68.8%を占めている。

持ち去り実験では、実験室の窓際に置いたシャーレ上のエライオソーム付きの種子を持ち去って飛び去る様子のビデオも公開されている。種子は巣に運ばれるわけではなく、途中で切り離されているらしい。そちらはケージ内に置いた巣を利用して確認している。途中で切り離すなら、最初にエライオソームだけ切り離したら良いと思うのだけど、果実にぶら下がっていると切り離しにくいのかもしれない。目視だけど最大80mは運んでいるので、結構な種子散布距離。

カオヤイのAquiralia crassnaの種子には何か付属体があり、リスは食害しているけど、鳥が散布するわけでもなさそうだったけど、多分、こちらもスズメバチが関わっているのだろうなあ。一度くらい、真面目に観察してみればよかった。

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