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東南アジアの森では、果樹園が哺乳類の多様性やバイオマスを高める [原著]

Moore et al. (2016) Fruit gardens enhance mammal diversity and biomass in a Southeast Asian rainforest. Biological Conservation 194:132-138.

マレーシアのアイムサさんのチームの論文で、半島マレーシアのKrau野生生物保護区での哺乳類を対象とした自動撮影カメラを利用した研究。 “food deserts”として知られる東南アジアの森において、果実食動物の餌資源としての果樹園の位置づけを検討している。果樹園には結実個体が多く、果実食動物も多いことを予想している。そりゃ、当然でしょと思うかもしれないけど、東南アジアでは、データで示した論文って、ほとんど無いんだよね。

調査地の標高は45-2108と低地から山地まで幅広い植生タイプを含んでいる。ただし、保護区内では、過去の人間活動により、アジアゾウ、サイ、ガウルは絶滅しており、トラ、マレーバク、スイロク、ホエジカなどの個体数も減少している。調査地内の果樹園7プロットとコントロールの天然林8プロットを設置して、プロット間で哺乳類相を比較している。なお、植生調査として、各プロットで半径9m以内の稚樹と18m以内の樹木のDBHを計測して、植生の指標としている。

自動撮影カメラは24HD Buchnellを利用し、LED感度はLow、1分間のビデオ撮影、センサー感知から撮影まで1秒、高解像度、撮影日時スタンプの設定で設置している。本文中に書かれていないけど、Appendixの撮影記録を見ると2013年9-11月に行われた調査。各プロットで2回の調査を行い、各調査で4台のカメラを7-10日間、けもの道など動物の利用頻度が高い場所に設定している。さらに果実1.5kg(ランサ、マンゴー、チュンペタ、パンギノキ)による誘引も行い、撮影効率を上げている。誘引なしだとけもの道でも1週間だと撮影頻度が少なすぎるのだろう。写真からの同定が困難な小型種については、マメジカ、リス、ネズミの機能群として扱っている。夜間のビデオ撮影だと色の情報が使えないから、ネズミの同定は難しいかもしれない。このへんの小型哺乳類は捕獲したことがあるので、読みやすい。

1024カメラ日の調査で哺乳類16種と鳥類4種、爬虫類1種が記録された。果樹園では21種が全て記録されたが、コントロールでは、16種で、マレーバク、ハクビシン、ミスジパームシベット、コツメカワウソ、カニクイザルが記録されなかった。天然林にいないとは思わないが、果樹園より密度が低いのだろう。果樹園とコントロールでは個体数に差は見られないが、バイオマス換算すると果樹園のほうがより高い値を示している。コントロールでネズミ類の撮影頻度がかなり高いのと、果樹園で中型から大型哺乳類の撮影頻度が高いことが効いている。

ただし、この研究での個体数は1時間以内の重複撮影をのぞいた撮影枚数を指標と利用しており、エサに誘引された小型哺乳類は、過大評価している可能性が高い。コントロールのネズミ類の撮影頻度が高すぎる気がするけど、エサがないから繰り返し訪問している分を過大評価しているのか、それとも一斉開花後で個体数が多い時期なのかがよくわからない。2013年は一斉開花していなかったと思うけど、その辺の情報も書いておいて欲しかった。でも2013年後半のデータを既に公表している点は素晴らしい。

これは漬物になっている10年前のデータを論文化する際に参考になる論文。ただ、わたしのデータは保護区の周辺が果樹園になっているので、ちょっとこの論文とは傾向が違ってもそんなものかもしれない。

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