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樹上カメラトラップの可能性と実践 [総説]

Moore et al. (2021). The potential and practice of arboreal camera trapping. Methods in Ecology and Evolution 12:1768-1779.
https://doi.org/10.1111/2041-210X.13666

樹上カメラトラップを利用した研究の現状をまとめた総説。イントロの内容はカメラトラップを応用した研究のまとめとしてはよく使われる構成で、それを樹上に応用した感じ。文献データベースでキーワード検索しているけど、Scopus、Google Scholarに加えて、ResearchGateが入っているのがちょっと珍しいか。1991年から2021年4月までの期間に90件の論文がヒットしている。ちなみに1991年の論文は、低木の訪花動物を調べたCarthew & Slater (1991)らしいんだけど、1-1.5mの高さは樹上何だろうかと思わなくはない。ただ、定義としてarborealを使うならこの論文も含まれるんだろう。

2013年までは比較的少ないが、2020年には17件も公表されており、ここ数年は急激に伸びている。国別では、オーストラリアが圧倒的に多く、次いでアメリカとブラジル、それから日本、中国、コロンビアなど。東南アジアやアフリカ熱帯ではまだまだ応用例は少ない。タイも0件。対象は哺乳類が多いけど、鳥類、両生類や爬虫類、昆虫や植物をターゲットにした研究もある。樹上で果実食を調べたり、未知の種や樹上の移動経路、さらには樹洞を営巣に利用する動物の捕食者、道路上の構造物を利用する動物、ビルで営巣する猛禽などを対象として利用されている。石川県庁のハヤブサもきちんとデータをまとめれば、ビルを利用する猛禽に含まれるんだろう。

樹上に設置すれば、新しいことがわかる可能性は誰もが感じているけど、実際に樹上に設置することを考えると、いろいろと問題点も多い。樹上にアクセスできる方法は限定されているし、地上と比べると直射日光が当たったり、枝葉のゆれによる誤動作も多いので、設置条件にも恵まれない。とまだまだ標準化された地上でのカメラトラップと比べると課題は多いけど、面白いことが見つかるかもしれない。
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樹上カメラトラップが明らかにした植物と果実食動物の相互作用 [原著]

Zhu et al. (2021) Plant-frugivore interactions revealed by arboreal camera trapping. Frontiers in Ecology and the Environment 19: 149-151
https://doi.org/10.1002/fee.2321

Zhu et al. (2021) Arboreal camera trapping: a reliable tool to monitor plant-frugivore interactions in the trees on large scalesのポイントを短くまとめてある。一つは樹上でもネズミ類が頻繁に撮影される果実があること。もう一つはこれまでは地上性と考えられてきたハッカンが、ダム湖という特殊な環境とはいえ、樹上でも果実を採食することをとらえている。自動撮影カメラを樹上での研究にもっと応用するといろいろなことがわかるよという話。
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定量的な種子散布ネットワークを構築するための方法比較:動物を観察するか、糞を集めるか [原著]

Schlautmann et al. (2021) Observing frugivores or collecting scats: a method comparison to construct quantitative seed dispersal networks. Oikos 130:1359-1369.
https://doi.org/10.1111/oik.08175

種子散布分野でもネットワーク解析はよく使われる手法として定着してきたが、その元データを収集する手法はさまざまである。本研究では、10種の植物を観察して記録した2189回の果実食動物の訪問データに基づいた種子散布ネットワーク(seed removal network)とDNAバーコーディングを利用した3094の果実食動物の糞や吐き戻しの分析に基づいた種子散布ネットワーク(seed deposition network)を比較している。日中に結実個体を訪問して、果実を採食する鳥類では前者、夜間に結実個体を訪問して、直接観察は難しいけど、糞は見つけやすい哺乳類では後者の手法が有効になると考えられるので、両方の手法を組み合わせることが必要だろうけど、それを豊富なデータに基づいて検証している。

調査地はポーランドとベラルーシの国境にまたがるビャウォヴィエジャの森。先行研究で、11か所の調査地が設置されており、2011年から2012年に10種の結実個体での果実の持ち去りが観察されている。一方、DNAバーコーディングによる糞内容分析では2016年から2018年にかけて、トランセクト沿いで、上記の10種の近くで糞を回収している。果実持ち去りと糞・吐き戻し分析のデータは調査地ごとにプールして、前者で77個、後者で87個のplant-siteの組み合わせをサンプリングしている。ただし、調査地によっては結実していない植物もいるので、どちらかのネットワークにシカ出現していないものは除去した結果、69個のplant-siteの組み合わせを対象としている。

果実持ち去りネットワークでは、1800時間の観察で25種の果実食動物が26977個の種子を2189回の訪問で持ち去っている。糞・吐き戻し分析では、20種の果実食動物が9376個の種子を3094個の糞・吐き戻しとして散布していた。両方のネットワークで共通していたのは11種で、残りのどちらかでしか記録されていない種のほとんどは量的な貢献は1%程度だった。優占したのは鳥類5種で、前者で97%、後者で77%の種子に該当した。一方、マツテンは前者では1%未満だったが、後者では22%にもなった。まあ、テンが結実個体で果実消費するのを観察するのは難しいだろうけど、糞は目立つ場所にすることが多いだろうから、よく拾うことはできるんだろう。

基本的には、量的な貢献度が高い動物については、どちらの手法でも記録できているけど、例外がマツテンになる。ただ、両方のネットワークは全体としては類似していたが、個々の特性については、相関は見られず、果実資源量の影響が大きい様子。まあ、利用可能な資源から何を食べることができるのかがある程度決まってしまうからなんだろう。ただし、考察でも述べられているようにこの研究はカメラトラップを使っていないので、結実個体での哺乳類の果実持ち去りを過小した可能性があるが、DNAバーコーディングで、糞や吐き戻しの種同定をしっかり行うことで、追加情報を得ることができるので、今後はますます広く使われるようになりそう。
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樹上カメラトラップ:大規模に樹上の果実と果実食動物の相互作用を観察するツール [原著]

Zhu et al. (2021) Arboreal camera trapping: a reliable tool to monitor plant-frugivore interactions in the trees on large scales. Remote Sensing in Ecology and Conservation (in press).
https://doi.org/10.1002/rse2.232

樹上(最高8mの高さまで)にカメラトラップを設置して果実と果実食動物の相互作用系に注目した研究。中国の千島湖ダム湖)の22か所の陸橋島において、液果をつける18種(Symplocos stellaris、Smilax china、Symplocos paniculata、Phytolacca americana、Aralia chinensis、Ilex chinensis、Vaccinium carlesii、Rubus lambertianus、Eurya muricata、Vaccinium mandarinorum、Lindera glauca、Raphiolepis indica、Ilex rotunda、Vaccinium bracteatum、Diospyros kaki、Rhamnus crenata、Photinia parvifolia、Rhus chinensis)を対象として、のべ318か所にカメラを設置して、果実を利用する動物を記録している。カメラトラップから得られた撮影画像から、果実食の有無を5段階評価している。さらに果実食を記録するために必要な調査努力量についてもヤンバルミミズバイSymplocos stellarisとヒサカキの仲間Eurya muricataの2樹種を対象として検討している。

調査期間は2019年6月から12月で、島ごとに調査路を設定し、月2回の頻度で調査路沿いの結実個体を探して、カメラを設置している。同種の結実個体がたくさんある場合は、結実数が多い個体を選択し、同種個体に設置する場合は20m以上離した場所で設置することで、過大評価しないようにしている。自動撮影カメラはLtl Acorn6210で、果実から2m離れた位置に設置している。センサー感度はHighかNormalに設定しており、感知時に3枚の静止画と10秒の動画を撮影する設定。同定用の写真を静止画でとらえて、果実食の有無を動画で確認するのに適した設定なのか?動画10秒だと果実を食べた証拠は得られても、訪問あたりの持ち去り数を評価することは難しい。果実食の有無は5段階評価(5:カメラをおいた島で採食した、4:カメラをおいた以外の島で採食した、3:どの島でも採食しなかったが、近縁種(同じ科または属)が採食した、2:採食記録はなかったが、他の地域の文献情報に記録があった、1:カメラでも文献情報にも記録なし)して、5と4の情報に基づいた解析を行っている。

12400カメラ日の映像(1490566個の画像と動画)に基づき4399イベントで275の果実と鳥類の相互作用を記録している。低木やツルのデータが含まれているので、日本で行っている研究と比較できそう。ただ、詳細な相互作用データは本論文では扱っておらず、あくまで調査手法としてどのくらい使えそうかを検討している。5台のカメラを30日間設置したSymplocos stellarisと53日間設置したEurya muricataでは、前者が7種、後者が11種の果実食鳥類を記録している。種数累積曲線はいずれも20日間ほどで飽和するが、前者では10日間、後者では21日間の調査ですべての種を記録できている。

樹上に自動撮影カメラを設置した研究は増えつつあるけど、まだまだ報告数としては少ないし、本研究のように群集レベルを対象とした研究も限られている。イントロで、樹上にカメラトラップを応用した先行研究がまとめられているので、卒論生に読んでもらうにはちょうどよさそう。Zhu, C., Li, W., Wang, D., Ding, P. & Si, X. (2021) Plant-frugivore interactions revealed by arboreal camera trapping. Frontiers in Ecology and the Environment 19: 149-151も併せて読むとよさそう。
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森の庭師:サイチョウ類が大型種子の空間分布を決める [原著]

Naniwadekar et al. (2021) Gardeners of the forest: hornbills govern the spatial distribution of large seed. Journal of Avian Biology2021: e02748
https://doi.org/10.1111/jav.02748

インドのサイチョウチームによる一連の種子散布論文の一つ。先行研究と比べるとより広い空間スケールで、サイチョウ類による種子散布の効果を検討することを試みた研究。大型種子をつける樹木5種(Beilschmiedia assamica、Phoebe sp.、Canarium strictum、Dysozylum sp.、Alseodaphne petiolaris)に注目することで、サイチョウルイによる種子散布の影響をより明瞭に示すことを狙っている。

調査地はインド北東部で、結実個体での果実の持ち去りの観察時間は12時間から34時間であまり多くはない。種毎の解析は厳しいので、サイチョウ類、ミカドバト類、小型鳥類、哺乳類の4つの機能群にした解析を行っている。哺乳類をひとまとめにするのはちょっと乱暴に見えるけど、霊長類やリス類はそれほど多く見られなかったらしい。サイチョウ類の個体数と餌植物の密度は8本(少なくとも500m離れた)の長さ1.5kmの調査路を設定して計数している。各調査路を500mに区切って、計24か所の調査区を設定した形にしている。

各調査路の両側10mでGBHが30cm以上のサイチョウ類の餌植物を計数しているけど、こちらは先行研究ですでに計数したもの。種子散布量の調査として、調査路沿いに200か所の1平方メートルの調査区を設定して、大型種子の散布の有無を定期的に確認している。さらに実験的に種子を150m間隔で設置して、散布後の種子の運命を追跡している。実生と稚樹については、調査路の両側1.5m幅について、同定可能な4樹種(Alseodaphneを除く)を計数している。最終的には、これらの情報を積み重ねて、最終的にサイチョウ類の種子散布量は個体数密度が高いところでは、1平方キロメートル当たり、大型種子12,700個に該当すると推定している。

Publonsに査読履歴が公開されているんだけど、最近、この地域のこの分野の論文はレビューしたばかりだから、この論文はとっても重要である、なんてコメントはコレットさんにしか書けない。
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