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多様な果実食哺乳類に種子散布を依存するランブータンの一種Nephelium melliferum [原著]

Brockelman et al. (2022) Dispersal success of a specialized tropical tree depends on complex interactions among diverse mammalian frugivores. Global Ecology and Conservation 40: e02312.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2351989422003146

カオヤイ国立公園のMoSingtoプロットが設定されたばかりの頃から研究されてきたランブータンの一種Nephelium melliferumの種子散布に関する研究。カオヤイで研究されてきた植物の中でもシロテテナガザルへの依存度がもっとも高いと思われる植物の一つ。シロテテナガザルの餌植物として重要だし、種子散布にも貢献している可能性は指摘されていたが、結実規模が大きく年変動するので、調査対象としてはなかなか難しい。2004年から2022年にかけて、複数回の調査を行い、1)直接観察と種子トラップによる林冠での果実食、2)自動撮影カメラを用いた林床での果実食、3)種子散布距離の推定、4)種子の運命と発芽実験、5)実生の一年後の生残、の5項目を確認し、SDEの枠組みで、重要な種子散布者を明らかにしている。2020年の調査はコロナの影響で、調査地には入れなかったために途中で中断したらしい。

生産果実がどの動物にどのくらい食べられているのかを示した図1はシルエットの動物も本来のサイズに合わせている様子でわかりやすい。林冠で78%も食べられているが、ほとんどがリス類(49%)、シロテテナガザルが16%、キタブタオザルが13%。残り22%しか林床に落ちない様子。ただ、リスが利用した果実のほとんどは林床に落ちる点はアグライアともよく似ている。林冠ではリスとシロテテナガザルは結実期間を通してやってくるけど、キタブタオザルは群れが通過した時なので、短期間で大量に食べるイメージ。シロテテナガザルは種子も飲み込むので、体内滞留時間が長くなる。一方、キタブタオザルは頬袋にいれて、種子は吐き出すので、ほとんどが樹冠下に散布される。リスも同様。種子食害者の排除実験から、散布後の主な種子捕食者は昆虫ではなく、哺乳類であることを確認している。アジアゾウに壊されなかったのであれば、運がいいなあ。実生の生残については、林冠から10m離れると倍の生存率を示している。相対的に重要なのは、シロテテナガザル、次いでフィンレイソンリスというのがちょっと意外だけど、量的にたくさん利用することが影響している。特に小規模な結実個体では、シロテテナガザルよりもフィンレイソンリスの有効性が高い。結実規模が小さい個体には、テナガザルやブタオザルの訪問頻度が下がるからだろう。

ちょうど私が研究を始めたころに研究していた修士課程の学生の修論の内容も引用されており、懐かしく読んだ。
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鳥類の渡りと果実量の変動にともなう種子散布ネットワーク構造の長期動態 [原著]

Ohkawara et al. (2022) Long‑term dynamics of the network structures in seed dispersal associated with fluctuations in bird migration and fruit abundance. Oecologia DOI:10.1007/s00442-021-05102-7

10月中旬の秋の渡りのシーズンに織田山鳥類観測ステーションで行われている標識調査時に糞内容分析を行い、さらに周辺の結実フェノロジーをモニタリングして、種子散布ネットワーク構造の長期動態を調べた研究。様々な地域での種子散布ネットワーク構造が描かれるようになって、ネットワーク構造を地域間比較、同一地域の季節感比較の研究もでてきた。年変動についても考量した研究が出てきたけど、10年を超えるものはまだまだ稀。本研究では、2005年から2016年にかけて、結実量の年変動、同時期の渡り鳥の個体数と種構成の年変動を調べて、両者のパターンに基づいてネットワーク構造を類別化し、ネットワーク構造を入れ子型とモジュール型に基づいた比較、およびその構造に影響を与える要因を抽出している。

結実フェノロジーの調査は調査ステーションの捕獲サイト(0.6ha)とその周辺のコース(10m×10km)の範囲での結実状況をツルや草本も含めて毎年調べている。結実数が少ない植物はすべて計数、多い植物は果序あたり、枝あたり果序数、個体あたり枝数と掛け算して推定している。散布者となる鳥類は、標識調査時にリリース前の個体が鳥袋のなかで排泄または吐き戻した種子を回収して、同定している。

調査期間中に植物は97種8067個体が結実しており、カラスザンショウとアカメガシワがほぼ毎年、優占していて23%~89%。個体あたりの結実数や道沿いで観察していることを考えるとそうなるだろう。ただ、その影響を除いても優占種の結実数は明確な年変動パターンが見られ、奇数年に結実数・結実種数ともに多く、偶数年に少ない。一方、鳥類は20種16722個体が捕獲され、1日あたりの捕獲数は36~122個体で、年によってかなりばらつく。15種6652サンプルのうち、1671サンプルに60種の植物が含まれていた。主な渡り鳥はシロハラ、マミチャジナイ、メジロの捕獲個体数と結実数や結実種数に明確な関係は見られない。年ごとの両者の傾向に基づいて、区分すると果実数も果実食鳥類も多い年(3年)、果実数は少ないが、果実食鳥類が多い年(5年)、果実数も果実食鳥類も少ない年(4年)の3グループになる。

果実数が少ない年には、入れ子型になり、シロハラ、マミチャジナイが、果実数が少ない年にはさまざまな植物を利用することで、ジェネラリストっぽくふるまうことが関係していそう。渡りの途中だと果実が少ない年には、普段は食べないような果実を食べることがでてくるんだろうな。

わたしが初めて見学したのは2015年の秋で、ちょうどこの論文のデータだと終わりの方の話。大河原さんたちがネットワーク関係の情報を収集しているのは知っていたけど、なかなか話を聞く機会がなかった。たまたまうちの職場と金沢大学で教育研究活動共同研究に対して小規模の研究費が採択されて、何度か調査にも同行させていただいたので、あのデータが公表されたのかと思うと感慨深い。個人的に面白いと思うのは、この結実フェノロジーのデータと石川県のブナ科豊凶パターンとの対応関係。基本、奇数年に多くて、偶数年に少ないパターンは一致している。全国的にはどうなっているのかを知りたい。

調査地の様子などは大河原さんのサイトにも掲載されている。
http://ecology.s.kanazawa-u.ac.jp/lab3/Ohkawara3/INDEX/Ohkawara.otayama.html
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移動性の高いオニハマダイコン属2種の世界的な分布を説明する [原著]

Shaw et al. (2021) Explaining the worldwide distributions of two highly mobile species: Cakile edentula and Cakile maritima. Journal of Biogeography 48:603-615.
https://doi.org/10.1111/jbi.14024

外来種として全世界に広がりつつあるオニハマダイコン属2種(Cakile edentulaとCakile maritima)を対象として、さまざまな原産地と定着先からサンプリングを行い、定着した回数、原産地の気候と定着後広がった場所の気候とを比較している。ハイスループットシーケンスとゲノムスキミング、さらにベイズ推定を組み合わせて、葉緑体ゲノム全体と核リボソームDNAの領域について、原産地と侵入地とでの変異を調べている。さらに各種のクレードが生育している地域の気候条件を調べている。GBIFデータも使っていて、同定に信頼のおける情報の地域に限り、気候条件を抽出している。

少なくとも7つのクレードが世界各地に侵入しており、そのほとんどについて原産地を特定することができている。定着先の気候条件は、原産地と近いものもあれば、本来の気候条件よりも広い範囲の場合も見られる。日本のオニハマダイコンとして、唯一、福井県のサンプルが含まれているんだけど、これがオーストラリアやニュージーランドとは全く異なるクレードに含まれている点がポイント。日本のサンプルが含まれるクレードA5の原産地はアメリカ東海岸の南側だけど、オーストラリアのクレードA9は北側で、明確に異なっている。

日本のサンプルの気候条件は原産地の範囲には含まれないけど、他地域の侵入先の気候条件の範囲には含まれているので、十分生育できるそう。日本への定着プロセスとしては、貿易ルートからアメリカ東海岸から西海岸のサンフランシスコ、それから太平洋を渡って日本という経路を想定している。東アジアのサンプルが日本しかないけど、周辺地域も同じ起源と考えてよいのかな。石川県のサンプルが福井県と大きく違うとは想定しにくいか。

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ナメクジによるアミメクロセイヨウショウロの胞子散布 [原著]

Ori et al. (2021) Effect of slug mycophagy on Tuber aestivum spores. Fungal Bology 125:796-805.
https://doi.org/10.1016/j.funbio.2021.05.002

ヤマナメクジの胞子散布に関連した研究に関わっているので、現状を知るのにちょうどよさそうな論文。地下に子実体を形成するトリュフの仲間では、空気中に胞子を飛ばすことは難しい。食菌性動物による被食散布によって、胞子が散布されると考えられており、哺乳類の中ではネズミ類、無脊椎動物の中では節足動物に注目されてきた。この研究では、ナメクジの胞子散布の可能性を給餌実験と食性調査から検討している。

ナメクジの一種Deroceras invadens(DNAバーコーディングで種同定)とハツカネズミを用いて給餌実験を行い、それぞれの動物が排泄した胞子の表面構造をSEMとAFMで観察し、アカガシワの実生に接種して、菌根形成を調べている。さらにトリュフ畑で採集したナメクジの腸内容物をDNAバーコーディングして、野外でもアミメクロセイヨウショウロを食べているのかどうかを確認している。

ナメクジの体内を通過することで、胞子の大部分が子のうから離れ、胞子の表面構造に変化が見られる。こういった変化があることで、コントロールと比べると菌根形成が起こりやすかったのではないかと考察している。またトリュフ畑のナメクジの腸内容物からも胞子が含まれていることが示されたことから、哺乳類や節足動物だけではなく、ナメクジもトリュフの仲間の胞子散布に貢献している可能性を示した研究。
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オオサイチョウとシワコブサイチョウのねぐら利用と種子散布への意義 [原著]

Naniwadekar et al. (2021). Roost site use by Great (Buceros bicornis) and Wreathed (Rhyticeros undulatus) Hornbill and its implications for seed dispersal. Biotropica https://doi.org/10.1111/btp.13039

インドのサイチョウ研究グループによるGPSを利用した個体追跡データを活用した一連の研究の一つ。アジアのサイチョウ類の中には、集団ねぐらを利用することが良く知られている種がいる。ねぐらとして利用される樹種や特定のねぐらを利用する個体数の変動などは知られているが、個体ベースではどのようなねぐら利用パターンを示すのか不明であった。さらに種子の体内滞留時間のデータなどを考慮することで、ねぐらを利用する個体があまり散布先として適当ではないとされるねぐらにどのくらいの種子を散布しているのかを推定している。

調査地はインド北東部のPakke Tiger Reserveで雄のオオサイチョウ4羽とシワコブサイチョウ1羽にGPSタグをつけて、追跡調査を行っている。19時の位置情報をねぐらとして、日々、どのように変わるのかを計算している。それらの位置情報が200m以内の場所は同じねぐらと仮定することで、ねぐらの位置を決めている。オオサイチョウは川から離れた場所にねぐらがあることが多いが、シワコブサイチョウは川に近い場所がほとんど。オオサイチョウもシワコブサイチョウも営巣場所からは離れた場所にねぐらがある。種子散布の視点からは、ねぐらに散布される種子の割合は平均10%(7-17%)と多くはないことが示されている点。体内滞留時間が非常に長い種子もしくは、ねぐら入りする前に食べられた分くらいしか散布されないだろうから、妥当な数値だろう。
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