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相利共生系における有効性概念の枠組み [原著]

Schupp et al. (2017) A general framework for effectiveness concepts in mutualisms. Ecology Letters doi: 10.1111/ele.12764.

主に植物と動物の相互作用系で使われてきた量的な要素と質的な要素からなる有効性(effectiveness)の枠組みを5つの共生系(送粉、種子散布、植物防衛、根粒、菌根)に拡張を試みた研究。effectivnessという用語自体は使われてきているが、研究によって意味合い異なり、必ずしも統一的に使われているわけではない。また、植物と動物の相互作用系では、パートナーとなる動物が植物の適応度や個体群動態に及ぼす影響に注目しているが、植物の資源を動物が利用することで、動物の適応度や個体群動態に及ぶ影響についてはほとんど知られていない。これらの共生系には多様なシステムが含まれるが、process(相手から受け取る資源やサービス)とoutcome(資源やサービスは適応度や個体群動態に即効性があるものと遅発性があるものがある)には共通点があり、そこに注目して一般的な枠組みを構築しようとしている。

分断化した熱帯景観を渡った種子:実際の種子散布距離を推定する [原著]

Ismail et al. (2017) Evaluating realized seed dispersal across fragmented tropical landscapes: a two-fold approach using parentage analysis and the neighbourhood model. New Phytologist DOI: 10.1111/nph.14427.

種子散布の研究で実際にどのくらいの距離、種子が運ばれているのかをしらべるには、遺伝情報を用いて親木と実生の親子関係を徹底的にしらべるというのが一つのやり方。しかし、潜在的な親候補を広範囲にわたって網羅的に調べるのは至難の業。特にサイチョウ類のような大型鳥類は行動圏が広く、追跡調査が難しいことから、その種子散布距離は移動パターンと体内滞留時間から間接的に推定されてきた。しかし、これらの情報はあくまで潜在的な種子散布距離の指標に過ぎず、何らかの形で実測値と比べる必要がある。

このチームではインド西部で主にサイチョウ類やミカドバトなどの大型の果実食鳥類によって種子散布されるセンダン科Dysoxylum malabaricumを対象として、216平方キロの35カ所の森林パッチの親個体を全てサンプリングし、それらの遺伝情報を利用して、実生488個体の親子解析を行い、実現している種子散布距離を推定している。森林の分断化が種子散布過程に及ぼす影響に注目しているが、そのスケールが先行研究よりもずっと広い範囲である点がユニーク。

この調査地では、結実木での直接観察は行ってはいないが、Dysoxylum malabaricumはニシインドコサイチョウOcyceros griseusによって種子散布されている。別のグループによる先行研究では結実木での観察が行われており、ニシインドコサイチョウが主な訪問者で、ミカドバト類は少ない。ニシインドコサイチョウの吐き戻し時間は短く10分程度で、吐き戻された種子にも発芽能力があることが確認されている(92%と100%)。ただ、種皮がついたままの種子の発芽率が10%(n=5とn=2)と書かれているのが謎?まあ、サイチョウ類が吐き戻した種子は基本、発芽能力があることは間違いない。ただ、種皮がついた種子は林床に落下したら、アリが種皮を食べると思うけど。

調査地内に68か所の20x20m調査区を設置し、結実木周辺の23調査区内で計313個体、ランダムに設置した調査区で175個体の実生からサンプリングをしている。実生はGPSで5mの誤差で位置を記録している。Paretage analysisとNeighbourhood modelの二つの方法で種子散布距離の推定を行っている。488個体のうち、高い確率で両親が確定したのが321個体、片方が79個体。両親が確定した321個体のうち、267個体は両親と実生が同一のパッチ内、53個体は片親が別のパッチ内、1個体は両親と実生がすべて別のパッチに由来していた。

過去の研究例と比べるとニシインドコサイチョウの実際の種子散布距離は随分と短いと考察しているけど、先行研究で扱っているサイチョウ類はもっと大型なので、必ずしも種子散布距離が過大評価されているわけではないのではなかろうか。ただ、サイチョウ類が種子散布に絡む植物を対象として、遺伝情報を活用して種子散布距離を推定した貴重な研究であることは間違いない。

南アフリカの都市-森林モザイクでナキサイチョウの出現を決める要因 [原著]

Chibesa & Downs (2017) Factors determining the occupancy of Trumpeter Hornbills in urban-forest mosaics of KwaZulu-Natal, South Africa. Urban Ecosystems. doi:10.1007/s11252-017-0656-3.

南アフリカのナキサイチョウを対象として、ポイントカウント法による調査を行い、都市-森林モザイクにおける出現パターンを解析した研究。2014年9月から2015年3月にかけて、3調査地に計50箇所のポイント(およそ1km間隔)を設定し、10回の調査を行っている。さらに各ポイントの半径30m以内の結実木の数、大きな木の数、ヒトの活動(調査中に通過したヒトや車の数)、住宅密度、標高との関係を調べている。

50箇所のポイントのうち、ナキサイチョウが記録されたのは19箇所にすぎない。ナキサイチョウのoccupancyに関わる要因としては、ヒトの活動(負の効果)、大きな木の数(正の効果)、detenctionに関わる要因としては、住宅密度(負の効果)、結実量(正の効果)で、それほどおかしくはない。ただ、いずれの要因も値が小さいところでばらつきが大きく、ある程度、大きな値ではoccupancyもdetenctionも高い(低い)ので、閾値がありそう。

ナキサイチョウはある程度、都市環境も利用できるとは言え、好んで使っているわけではなさそう。

ミナミジサイチョウの巣内の温度変動 [原著]

Combrink et al. (2017) Nest temperature fluctuations in a cavity nester, the southern ground-hornbill. Journal of Thermal Biology 66:21-26.

南アフリカのミナミジサイチョウの営巣環境を温度の視点から調べた研究。クルーガー国立公園において、2013-2015年にかけての2回の繁殖シーズンを対象として、ミナミジサイチョウ自然巣8箇所、人工巣1箇所に温度データロガーを設置し、繁殖期の巣内外の温度を記録している。自然巣の樹種はDiospyros mespiliformisが4巣、Philenoptera violaceaが2巣、Ficus sycomorus、Combretum imberbeが1巣ずつとなっている。Combretum imberbeはクルーガーで見たなあ。

ボタン式のデータロガーは最初、自然巣9箇所を対象としていたが、データを回収できたのは6箇所、二年目は4箇所とさらに減少する。しかも人工巣のデータは1箇所のみで、かなり苦しいデータ。ただ、巣内のデータロガーは親鳥や雛鳥に見つかれば壊されるだろうし、巣外でも壊されるので、仕方がない。作業仮説としては、巣内の温度変動は巣外よりも小さい。また、温度変動が繁殖成功に与える影響についても検討している。

平均気温は巣内のほうが巣外よりも高いが、最高や最低は巣外の方が高い傾向があるため、巣内の温度環境はより安定している。しかし、巣内の温度変動は繁殖成功には影響しておらず、もっとも変動が大きい人工巣でも両年とも繁殖成功していた。意外とミナミジサイチョウは温度変動にも強いのかもしれない。

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