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ミャンマーのナナミゾサイチョウの分布と現状 [原著]

Zhaw Naing Thet (2015) Distribution and status of Rufous-necked Hornbill Aceros nipalensis in Myanmar. Malayan Nature Journal 67: 158-172.
http://www.mnj.my/index.php/mnj/article/view/183

ミャンマーもなかなかサイチョウ類の情報が不明な地域の一つなだけにこのような形で調査情報をまとめていただけるとありがたい。2000年から2012年に書けてミャンマー北部、南部、西部で行われた調査で記録されたナナミゾサイチョウの現状についてまとめている。正確な調査手法が書かれていないので不明だが、ラインセンサスだろうか?

ミャンマーで記録されている鳥類は1,100種で、サイチョウ類は10種(ビルマサイチョウ、ムジサイチョウの一種、ムジサイチョウ、キタカササギサイチョウ、オオサイチョウ、オナガサイチョウ、シロクロサイチョウ、ナナミゾサイチョウ、ムジシワコブサイチョウ、シワコブサイチョウ)。いずれもミャンマー国内では保護対象だが、食用やオオサイチョウやナナミゾサイチョウは尾羽やカスクを目的とした狩猟圧にさらされている。さらにペットとしても捕獲されている。さらに生息環境の破壊も進行しており、早急な調査が必要な地域の一つ。

半島マレーシアにおけるムジシワコブサイチョウの保全 [原著]

Yeap et al. (2015) Conserving the globally threatened Plain-pouched Hornbills in the Belum-Temengor Forest Complex, Peninsular Malaysia. Malayan Nature Journal 67:144-157.
http://www.mnj.my/index.php/mnj/article/view/182

半島マレーシアのタイ・マレーシア国境付近を利用するムジシワコブサイチョウを対象とした市民参加型モニタリングプログラムの結果をまとめた論文。筆頭著者のYeapさんはわたしがタイ南部で調査をしていたころに連絡をもらったことがある。ムジシワコブサイチョウはミャンマー、タイ、マレーシアにかけて分布するAceros属の一種で、大規模な移動を行うことが知られている。この論文では2004年から2012年に収集されたデータをまとめている。

この地域でムジシワコブサイチョウの移動が確認されたのは1992年。当初はAceros属の一種で、シワコブサイチョウかムジシワコブサイチョウか断定できていなかったが、その後の観察からムジシワコブサイチョウであることが確認され、マレーシアで10種目のサイチョウ類となった。

毎月、定点観察を朝夕に行い、個体数、性別、年齢、飛行方位、行動などを可能な限り記録しているが、欠損月もある。2008年から2012年はボランティアプログラムにより、8-9月についてはほぼ毎日の調査を行うことができている。2010年から2011年については、複数の場所で同時カウントを行い、最大個体数を推定している。

6月ごろから観察されるようになり、9月ごろに個体数のピークが見られる。最大3261個体がカウントされているが、年変動がかなり大きい。ただし、ねぐらはまだ確定できていない。ねぐらを特定するには、衛星追跡しないと難しいだろうなあ。このタイ・マレーシア国境地域がムジシワコブサイチョウの日繁殖期の重要な生息環境になっているのは間違いない。

フィリピンのパラワンサイチョウの繁殖生態と保全 [原著]

Widmann et al. (2015) Aspects of breeding biology and conservation of the Palawan Hornbill Anthracoceros marchei in the Palawan Faunal Region, Phillippines. Malayan Nature Journal 67:131-143.
http://www.mnj.my/index.php/mnj/article/view/181

サイチョウ学会を定期的に開催する意義としては、これまで繁殖生態が知られていない種の情報が報告されること。サンプル数も少なく、一流誌に掲載できるだけの情報を収集するのは難しいが、保全上、貴重な情報を含んでいることが多い。この論文では、本来はフィリピンオウムCacatua haematuropygiaの保全を目的として設立された保護区内で、パラワンサイチョウの繁殖生態を記録している。オウムもサイチョウも樹洞を繁殖に利用するので、オウムの調査をしていると、結果的にサイチョウの営巣木に遭遇することもある。

保全プロジェクトを行っている3か所(いずれも)で樹洞を利用している動物を探している。調査地によってはDipterocarpus grandiflorusやKoompassia excelsaなどが林冠を構成している。農耕地に残された林冠木でオウム、サイチョウ、キュウカンチョウなどの営巣に使われているものは、密猟者が個人所有している。

8樹種からなる9つの営巣木をモニタリングし、5樹種は種レベルまで同定できており、Azadirachta excelsa、Koompassia excelsa、Pongamia pinnata、Syzygium claviflorum、Terminalia calamansanai、残りはCleistocalyx sp.とSyzygium sp.については属レベルまで同定されている。

パラワンサイチョウの繁殖期は乾季の終わりの3月末から雨季の中頃の7月末で、同じ木を複数年(最大5年)利用していた。繁殖期間中に営巣木の下に落とされた種子は少なくとも13種あり、Syzgium、Canarium、Elaeocarpus、Garciniaなど。フィリピンでもCanarium食べているんだなあ。でもGarciniaって小型種の柔らかい種子をもつグループだろうか。

パラワン南部の50名のハンターに聞き取り調査を行っており、年に17羽のサイチョウを捕獲し、そのうち14羽が自家消費用。パラワン全体でも同じなら、ペット用よりも肉としての消費で利用される割合が高いのかもしれない。ペット用に捕獲されているのも確か。ネット上で販売されている場合もあるが、どうも正式な許可があるわけではなさそう。日本国内で販売されているのはどこから入手されたのだろうか?

オオサイチョウのカニバリズムと人工飼育 [原著]

Gabayoyo et al. (2015) Artificial incubation and hand rearing of Great Pied Hornbill Buceros bicornis following cannibalisms of chicks by parents. Malayan Nature Journal 67:119-130.
http://www.mnj.my/index.php/mnj/article/view/180

シンガポールのJurong Bird Parkで2010年から2012年に繁殖したオオサイチョウのヒナを人工飼育した経過報告。2010年は3つの卵を産んだが、いずれも親がヒナを食べてしまった。2011年は3つの卵を産んでから、抱卵2週間を経て、人工飼育に変更。2012年は3つの卵のうち、1つが割れ、1つが未受精卵で、1つはメスが途中からヒナに給餌しなくなったので、人工飼育に変更している。

2010年の繁殖期に人工巣内をモニタリングできるCCTVカメラを導入したことで、産卵日や巣内での行動を詳細に記録できている。ちょっと驚いたのは3年とも一腹卵数が3であること。2個は産んでいることは知られているけど、本来は3なのだろうか?同じペアのデータなので、どのくらい一般性はあるか不明だが、大型鳥類とはいえ、1卵ということはなさそう。

飼育下での抱卵期間は37日で、最初のヒナはメスが食べてしまった。2羽目のヒナは巣の中に首を突っ込んできたオスがつまみあげて、メスにあげると食べて、3羽目のヒナもメスが食べたと見られている。オオサイチョウのペアは1日に2回、パパイヤ、バナナ、ブドウ、ひき肉、ヌードマウス、サイチョウ用ペレットを給餌されていた。

2011年は3卵が産まれた段階で、回収して、人工飼育に切り替えている。ただし、3卵目は無精卵だったので、初卵と二卵目の孵化直後の体重は34g前後。その後は毎日体重の増減を記録している。孵化後1か月で、800-1400gと結構なばらつき。孵化後40日くらいで、ヒナの採食行動に変化が見られ、果物よりも肉を好むようになり、果実は吐き戻したりする。野外でこのような観察は困難なので、貴重な情報。

ブードー・スンガイパディ国立公園におけるサイチョウ類用の人工巣の評価 [原著]

Pasuwan et al. (2015) An assessment on artificial nest construction for hornbills in Budo-Sungai Padi National Park, Thailand. Malayan Nature Journal 67:100-117.
http://www.mnj.my/index.php/mnj/article/view/179

2013年4月にフィリピンで開催されたサイチョウ学会の特集号。わたしがちょうど滞在していた2004年から開始された人工巣は2006年以降、徐々に使用頻度が高まってきた。この研究では、人工巣と自然巣の繁殖活動を比較することで、人工巣の有効性を評価している。具体的には、訪問頻度や営巣期間の比較とデータロガーによる巣内の微環境(温度と湿度)の記録を行っている。

筆頭著者は生態学者ではなく、芸術が専門で、人工巣の作成を手掛けた。2005年から2006年にかけて、のべ19個の人工巣が導入された。人工巣を利用したのはいずれもオオサイチョウで、利用したペアの数は、2006年に1ペア、2007年に1ペア、2008年に3ペア、2009年に5ペアと徐々に増えてきている。ツノサイチョウは様子を見に来ているけど、2009年までには利用していない。

営巣期間は、自然巣で平均121日、人工巣で123日とほぼ同じで、タイ国内の先行研究で知られている114-134日の範囲におさまっており、営巣期間が長期化するなどの影響はなさそう。ただし、人工巣の気温や湿度は外気とほぼ同じで日変動があるのに対して、自然巣ではほぼ一定で安定している。木の上に固定しているので、自然巣よりも日光の影響を受けやすいのは間違いない。

それでも自然巣が少ない環境では、保全対策として人工巣は有効な手段の一つだろう。

ビデオモニタリングとタイムラプス撮影データから訪花昆虫を検知する手法 [原著]

Nakase & Suetsugu (2016) Technique to detect flower-visiting insects in video monitoring and time-lapse photography data. Plant Species Biology (in press) DOI: 10.1111/1442-1984.12095

ビデオ録画やタイムラプス機能を利用して訪花昆虫を記録する手法は、近年、広く使われるようになりつつある。撮影機材の低価格化にともない、大量の撮影記録が得られるのは良いが、そのデータ解析には膨大な時間が必要になる。特に訪問頻度が低い生物を対象とした場合、延々と何も撮影されていない写真を見続ける必要がある。この面倒な(けど意外な現象が撮影されていて面白いこともある)解析作業をある程度、自動化して撮影データをフィルタリングし、訪花動物の撮影記録を効率良く抜き出し、解析するための手法を紹介している。

わたしも国内での研究には、デジタルカメラのインターバル撮影機能を利用s田膨大なタイムラプスデータの入力作業を続けている。けど、残念ながら、今、解析してる撮影データは、さまざまな動物の訪問頻度が高すぎて、自動化作業はあんまり有効ではなさそう。ただ、自分ですべて確認したデータでもその再確認作業として使えるし、別の植物の訪花昆虫を対象とした撮影データには使える可能性があるので、そのうち使ってみたい。

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