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ボルネオ熱帯雨林の半着生イチジクの更新が少ない理由の一つは林冠での指向性散布が限定されているから [原著]

Nakabahashi et al. (2019) Limited directed seed dispersal in the canopy as one of the determinants of the low hemi-epiphytic figs’ recruitments in Bornean rainforests. PLoS ONE 14(6): e0217590.

ボルネオの熱帯雨林において、半着生イチジクはさまざまな果実食動物によって利用されるため、潜在的には多種多様な種子散布者がいる。しかし、半着生イチジクの個体数密度はどこでも低密度であることから、発芽もしくは定着に適当な場所に散布されていない可能性が高い。本研究では、それらの種子散布者として、ボルネオを代表する大型の果実食動物で、イチジクへの依存性が高いビントロング、ミュラーテナガザル、オナガサイチョウに注目し、それぞれの種子散布者としての有効性を量と質の両面から検討している。

量的な有効性は、結実木での直接観察により、一日あたりの果実消費量から評価している。果実消費量の推定には、訪問あたりの滞在時間を採食速度(5個以上連続で食べたときの値)で割った値に平均種子数をかけた値を利用している。質的な有効性は、体内通過した種子の発芽実験と排泄場所の環境条件から検討している。ビントロングとオナガサイチョウは糞から回収した種子と果実から採集した種子で発芽率を比較している。ミュラーテナガザルはインドネシアの先行研究の値を利用している。また、散布者を個体追跡して、散布先を特定し、種子の運命を追跡したが、すべて死亡したか、アクセスできなくなったため、先行研究の実生の生存率を類似した環境条件に置き換えた数値を利用している。

種子散布距離はビントロングとミュラーテナガザルは追跡データから1時間あたりの移動距離を算出し、体内滞留時間を組み合わせて推定している。オナガサイチョウはピライさんたちがカオヤイで収集したオオサイチョウの1時間あたりの移動距離のデータを論文から読み取り、さらにクタイでサイチョウ類の研究をしていたLeighton (1982)からペットとして飼育されていたアカコブサイチョウの体内滞留時間を利用している。サイズ的にはオナガサイチョウよりは一回り小さいが、それほど変わらんだろう。ただ、Supporting informationの体内滞留時間の最大値と最小値が逆になっているので注意。

散布先の環境情報を半着生イチジクの稚樹が見られる環境条件と比較してNMDSで解析した図2が素晴らしくって、ビントロングの散布先と稚樹の条件がほぼ一致していて、ミュラーテナガザルとかオナガサイチョウとは明確に異なる傾向を示している。どの散布者も発芽能力のある種子を散布しており、種子食外とかはなさそう。種子散布距離で比べるとビントロングが一番短く、オナガサイチョウが一番長いけど、SDE landscapeで見るとビントロングが量的にも質的にも有効で、オナガサイチョウは量的には少ないが、散布場所によっては質的に高い場合も見られる。残念なことに図3と図4はキャプションや本文中の引用は正しいけど、肝心の図が入れ替わってしまっている。図3はSDE landscapeを提示したもの、図4が種子散布距離を推定したものが正しい。

自分のデータに先行研究の様々なデータを組み合わせて、一般的には有効な種子散布者であるとされるテナガザル類やサイチョウ類ではなく、ビントロングが半着生イチジクにとって数少ない有効な種子散布者であることを示した研究。
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