SSブログ

農業生態系における動物の行動から得られる純収益 [原著]

Luck (2013) The net return from animal activity in agro-ecosystems: trading off benefits from ecosystem services against costs from crop damage. F1000Research 2:239.

昆虫食鳥類による生態系サービスを考えると、害虫を食べる側面に着目するなら正の効果、一方、訪花昆虫を食べる側面に着目するなら負の効果といった具合に正負両方の側面がある。オーストラリアのアーモンド農園において、アーモンドを加害するオグロインコPolytelis anthopeplusを対象として、収穫後に樹上に残されたアーモンドを食べて、病害虫を減らす正の効果に着目している。オーストラリアでは近年、アーモンド農園が拡大中らしい。

まずアーモンドに袋がけした60個体とコントロール60個体を利用して、収穫前の食害量を定量化している。ただし、木をまるごと袋がけしているのではなく、個体について1枝を袋がけしている。各個体は、農園の境界から中央にかけて配置している。コントロールで被害受けたアーモンドの数を定量化し、減収量分に値段を掛け合わせて、ヘクタールあたりの損失を計算している。

収穫後の残存アーモンドのインコによる利用による利益は、そのままでは評価できないので、代替手法として、機械を使って処理する場合(木を揺らして、実を落とす)と人間が手作業で処理する場合の2つについて必要経費を計算して評価している。機械利用の場合、熟練した作業員なら1本あたり20秒程度で処理できるので、人間が手作業でやるよりも最終的なコストは安くなる。

収穫前のインコによる食害率は2.8%で、風による落下などによるダメージ5.9%の半分以下。ただし、インコの訪問が多い農園の境界に近いほど食害率が増加する。アーモンドの単価から計算したインコの食害コストはヘクタールあたり57.5AUDで、インコ以外のコスト122.5AUDの半分以下。

収穫後の残存アーモンドの持ち去り率は非常に高く、境界付近では50%を越す。ただし、空間的な影響があり、インコがよく訪問する農園の境界付近では高いが、農園の中央付近では低い。インコ以外による消失は収穫前と同様で10%以下。残存アーモンドの収穫にかかるコストは、機械だとヘクタールあたり82.5AUD、人手だと332.5AUDとかなり高額になり、いずれもインコによる損失を上回ると推定されている。ただし、機械については、一度の処理で残存アーモンドを除去できるとの前提を置いているので、過小評価されている可能性が高い。

種子散布ではなく、種子食害に注目した研究ではあるが、鳥類を対象として、その生態系サービスを正負両方の側面から定量的に評価している研究。図1に示してあるような図はイントロなどにも使いやすそう。2013年1月からの新しい雑誌で、open refereeing systemを採用しており、論文の最後にレフリーコメントも掲載されている。
コメント(0)  トラックバック(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。