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生態学的研究手法としてのCitizen Science:挑戦と利点 [原著]

Dickinson et al. (2010) Citizen science as an ecological research tool: challenges and benefits. Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematics 41:149-172

ボランティアによって収集されたさまざまなデータを利用した研究が増えつつある。この論文では特に歴史があり、データセットがそろっている鳥類を対象とした研究についてまとめている。日本生態学会誌に組まれた博物館と生態学の特集でふれられた内容に近いが、欧米でcitizen scientistに収集されているデータの厚みや歴史の違いは圧倒的。いわゆる専門家が行う研究との違いは、広範囲な地理スケールかつ個人所有地を含んでデータが収集されている点。

最初にこれらのデータが基礎生態や応用生態に活用された事例を紹介し、次にこれらのデータの質、特にエラーやバイアスを含んでいるデータを取り扱う点に注目している。事例研究としては、気候変動に関連した項目としては、分布域、フェノロジー、種の多様性や構成など、個体群生態に関連した事例としては、生活史進化、感染症、種間競争や侵入種などが挙げられている。鳥類の長期モニタリングデータの活用事例として紹介するべき論文を探すときに役立ちそう。マクロエコロジー系雑誌に掲載されている論文が多い。

それよりも個人的には、市民参加型調査のデータの扱いについてかなり検討してある点が参考になる。調査者のサンプリングバイアスはかなり大きいし、それらのバイアスを取り除くための努力にかなり時間を費やす必要がある。実際、市民参加型調査では、初心者効果がかなりクリアーに検出されるらしい。データベース化するまでにしっかりとしたデータの見極めが行われている点が重要。

怪しいデータについては、データ送付者に再確認をとり、そのデータをサポートするような情報提供を求めるなどの作業が行われている。鳥類の長期モニタリングデータを主眼とした論文ではあるが、これらの先行事例の問題点が整理されており、今後、市民参加型のプロジェクトを開始するなら読んでおくべき論文の一つ。
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